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インド経済「重症」で低迷は長期化

迫る「スタグフレーション」の危機

2021年1月号

「インド経済は非常に心配な状況です」。インド大手紙ヒンドゥー紙に、二〇一九年十一月に掲載されたあるコラムはこの書き出しではじまった。書き手はマンモハン・シン前首相。「野党の一人としてこれを言うのではなく、この国の市民として、経済学者として言います」と前置きしたうえで、名目GDP(国内総生産)成長率や失業率、家計消費などの悪化を示し「これらは現在の国の経済を悩ませている深い根底にある倦怠感の単なる兆候にすぎません」と指摘している。
 著名経済学者でもある同氏は、この記事の中でインド経済は明らかに低迷しており、それらの統計データをあらゆる手段で隠そうとするモディ政権を批判。「スタグフレーションのリスク」を指摘し、「消費需要拡大のための財政政策を迅速に行うべき」と主張していた。この記事はコロナ禍に入る前のことであり、当時はやや唐突なスタグフレーション懸念として一笑に付された感もあった。しかし、低迷していた経済は二〇二〇年、コロナ禍によってどん底に落ちて失業率が急上昇したにもかかわらず、同氏の言う通りにインフレ率はインド準備銀行(RBI、インドの中央銀行)のインフレ目標上限をはるかに・・・