《クローズ・アップ》泉澤 清次(三菱重工業社長)
1兆円旅客機事業「撤退」の難行
2020年11月号
三菱重工業は途上だった小型ジェット旅客機「スペースジェット」の開発を凍結、事実上の撤退に向かう見通しとなった。新型コロナウイルス感染による航空需要の激減という緊急事態があったにせよ、三菱重工には技術的、資金的、政治的に手に負えないプロジェクトだったことも確か。
昨年四月に就任した同社の泉澤清次社長にとってみれば、激しい乱気流に巻き込まれ、墜落寸前で、ようやく緊急着陸できたような心地だろう。
スペースジェットは「四十年ぶりの日の丸旅客機」を目指して開発に入ったものの、航空会社が顧客となり、各国の航空当局が「型式証明(TC)」を出す民間旅客機ビジネスには予想を上回る多くの魔物が棲んでいた。想定外の技術課題に相次ぎ直面し、開発は難航を重ね、当初の納入目標の二〇一三年からすでに六回の遅延を重ねてしまった。
三菱重工は米ボーイング社から機体の一部を長年、受注してきた経験がある。ボーイングのヒット機となった「787型機」では得意の炭素繊維の加工技術を駆使して、最も重要な主翼部分を受注。自らの航空機技術には自信を持っていたはずだ。戦前の戦闘機「零戦」の実績から、・・・
昨年四月に就任した同社の泉澤清次社長にとってみれば、激しい乱気流に巻き込まれ、墜落寸前で、ようやく緊急着陸できたような心地だろう。
スペースジェットは「四十年ぶりの日の丸旅客機」を目指して開発に入ったものの、航空会社が顧客となり、各国の航空当局が「型式証明(TC)」を出す民間旅客機ビジネスには予想を上回る多くの魔物が棲んでいた。想定外の技術課題に相次ぎ直面し、開発は難航を重ね、当初の納入目標の二〇一三年からすでに六回の遅延を重ねてしまった。
三菱重工は米ボーイング社から機体の一部を長年、受注してきた経験がある。ボーイングのヒット機となった「787型機」では得意の炭素繊維の加工技術を駆使して、最も重要な主翼部分を受注。自らの航空機技術には自信を持っていたはずだ。戦前の戦闘機「零戦」の実績から、・・・