三万人のための情報誌 選択出版

書店では手に入らない、月刊総合情報誌会員だけが読める月間総合情報誌

連載

日本の科学アラカルト 123

光エネルギーで水素を作る 「人工光合成」の研究

2020年11月号

 燃料電池車はすでに市販され、水素ステーションも稼働しているが、いわゆる「水素社会」の実現はまだ少し先のようだ。発電過程で二酸化炭素を排出しない燃料電池と同様に重要なのは水素の製造だ。現在、実用されている水素の多くは、化石燃料を改質することによって作られている。その過程では二酸化炭素を排出するため、燃料電池車がすなわちゼロ・エミッションということにはならない。
 太陽光発電や風力発電で得られた電気を使って、水を電気分解すれば、水素と酸素を得ることが可能だ。太陽光パネルや風力発電設備を作るためにエネルギーが必要になるため、完全ではないが、水素製造過程での二酸化炭素排出はない。また、水素は燃料電池のエネルギー源となるだけでなく、二酸化炭素と合成させることでプラスチックを作ることも可能だ。つまり、発電所や工場で回収した二酸化炭素を大気中に出すことなく有用な物質に変えられることになり、実用化に向けた研究も続く。
 水素を作る別の手段として「人工光合成」がある。植物で行われている光合成は、単純化すると、光エネルギーを使って酸素を作り、二酸化炭素を糖に変化させる。人工光合成の場・・・