皇室の風 147
山川も草木も人も 共生のいのち
岩井 克己
2020年11月号
平成二十五年の歌会始で披講された美智子皇后(当時)の「御歌」には、読むたびに様々な記憶を呼び覚まされる。
天地にきざし来たれるものありて
君が春野に立たす日近し
前年二月の天皇の心臓冠動脈バイパス手術。事前検査では、冠動脈狭窄の二カ所のうち一カ所は九〇パーセントにも及んでいた。玉体、しかも心臓にメスを入れるかどうかという重大事だけに、東京大学と宮内庁の医師団の「御前会議」では様子見案も説明されるなど躊躇う空気が漂った。
驚異的な手術成功率の実績から「神の手」と呼ばれていた順天堂大学心臓血管外科教授天野篤(当時五十六)の名も出た。しかし錚々たる医師たちにして、誰も「言い出しっぺ」になりかねて、なかなか結論に向かわない……。
その時、一同の胸中を察してか、皇后が意を決したように発言した。
「神の手はいつまでも神の手ではありません」
この一言で座の緊張がとけ、背を押されるように天野への・・・
天地にきざし来たれるものありて
君が春野に立たす日近し
前年二月の天皇の心臓冠動脈バイパス手術。事前検査では、冠動脈狭窄の二カ所のうち一カ所は九〇パーセントにも及んでいた。玉体、しかも心臓にメスを入れるかどうかという重大事だけに、東京大学と宮内庁の医師団の「御前会議」では様子見案も説明されるなど躊躇う空気が漂った。
驚異的な手術成功率の実績から「神の手」と呼ばれていた順天堂大学心臓血管外科教授天野篤(当時五十六)の名も出た。しかし錚々たる医師たちにして、誰も「言い出しっぺ」になりかねて、なかなか結論に向かわない……。
その時、一同の胸中を察してか、皇后が意を決したように発言した。
「神の手はいつまでも神の手ではありません」
この一言で座の緊張がとけ、背を押されるように天野への・・・