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連載

本に遇う 第250話

在任長ければ恥多し
河谷 史夫

2020年10月号

 一九四五年二月、日本の運命を決すべくヤルタ会談に臨んだルーズヴェルト米大統領は、アルヴァレス病(脳小動脈の小破裂)を発症していた。チャーチル英首相の目には「彼にはもう、自分の権力に見合うだけの体力がない」と映った。そのチャーチルは狭心症を抱え、在任中に脳卒中を起こした。意識朦朧となってしまい、主治医から辞任を忠告される。
 政治家と病気を主題にした『現代史を支配する病人たち』の巻頭には、「人類の歴史における病気の役割、すなわち、この歴史を作っている偉人たちの病気の知られざる重大な役割について、論文を書くべきなのだ。クレオパトラの鼻については語られる。しかしリシュリューの痔についての話は聞かない」と、アンリ・ド・モンテルランの言葉が記されている。
 いずれ「安倍晋三と潰瘍性大腸炎」の表題で論文を書く政治学者が出て来るかも知れない。「国難突破」などと豪語していた総大将がコロナ国難の最中に旗を巻いたのだから世話はない。首相の持病で内閣は再度頓挫した。歴史は繰り返す。一度目は悲劇として、二度目は喜劇としてと言うけれど、これが喜劇か悲劇かは、それこそ歴史が判断するであろう。・・・