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連載

現代史の言霊  第30話

十月の驚愕-一九八〇年の米大統領選-
伊熊 幹雄

2020年10月号

《これは徹頭徹尾、反民主的だ》
ゲイリー・シック
(カーター政権高官)


 米大統領選は十一月一日以後、最初の火曜日が投票日になる。十月は、ラストスパートの月である。世論調査で劣勢の側は、一発逆転の方策を練る。このことから、「オクトーバー・サプライズ」という政治用語が生まれた。

マドリードにレーガンの密使

 一九八〇年の大統領選では、現職ジミー・カーター大統領(民主党)が、共和党のロナルド・レーガン候補にリードされていた。共和党は、「相手は現職だ。必ず大博打を仕掛けてくる」と警戒した。
 時計の針をさらに戻そう。これより二~三カ月前の夏のことだ。
 スペインの首都マドリードの最高級ホテルで、レーガン陣営の選挙対策委員長、ウィリアム・ケイシーの姿が目撃された。お忍びの様子だが、米中央情報局(CIA)マドリード支局の情報網は、この要人を見逃さなかった。
 ケイシーはニューヨーク市生まれ。弁護士を始め・・・