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連載

大往生考 第9話

あるALS患者の願い
佐野 海那斗

2020年9月号

「何とかして、京都大学の治験に参加できないでしょうか」
 知人から相談を受けた。知人の叔母は筋萎縮性側索硬化症(ALS)を患い、寝たきり生活を続けている。患者は主治医から京大iPS細胞研究所の井上治久教授が中心となって、慢性骨髄性白血病治療薬「ボシュリフ」のALSへの効果と安全性を検証する医師主導治験が進行中であることを教えてもらった。昨年三月に治験が始まり、目標症例数は二十四例。京都大学以外に徳島大学、北里大学、鳥取大学が参加している。筆者に関係者への仲介を依頼してきた。
 ALSは運動神経の変性疾患だ。筋肉が萎縮し、手が握れない、ものが飲み込みにくい、呂律が回らないなどの症状が出現する。進行は速く、数年で寝たきりになったり、呼吸筋が麻痺し、人工呼吸器の装着が必要となる。こうなると文字盤などを用いて、介助者が眼球運動を読み取ってコミュニケーションをはかるが、さらに進行して眼球運動が困難になると、意思疎通が難しくなる。
 この病気がつらいのは、知覚神経は侵されず、認知機能は正常であることだ。「生き地獄」と称する患者もいる。自殺する患者も少なくない。二〇〇八・・・