世界中の著名な医療機関と製薬会社が競う、新型コロナウイルスのワクチン開発。目下、トップを走るのが、英オックスフォード大学ジェンナー研究所と製薬大手アストラゼネカの共同チームだ。
　七月に医学誌「ランセット」で、「初期の臨床試験は、安全、効果的」と紹介された。競馬好きが多い英政界は、「ぶっちぎりだ」と沸き立つ。英政府は早々に、一億人分のワクチンを発注した。
　このチームのリーダーが五十八歳のギルバートである。この世界は女性研究者が圧倒的少数派とあって、彼女がトップチームを率いること自体にも注目が集まった。二十一歳の三つ子はそろって生物化学を専攻し、母親の後を追いかけている。新型コロナのワクチン開発では三人とも、臨床試験のボランティアを買って出た。
　ロンドン北方にあるノーサンプトンシャー州の小都市で、音楽家の家庭に育った。「頭脳優秀で努力家」というのが、幼少期を知る人たちの一致した評だ。高校生の時に医学の道を志し、地元のイースト・アングリア大学に進学。ハル大学で博士号をとった。英国医学の御三家のオックスフォード、ケンブリッジ、インペリアル・カレッジ・ロンド・・・