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連載

大往生考 第6話

受け止め難い新型コロナでの死

2020年6月号

「先ほど、容態が変化し他界しました。いろいろとご尽力くださり、誠にありがとうございました」
 五月中旬に知人から、彼の七十代の母親の訃報を伝えられた。知人は病院の事務職員で、筆者は治療方針について相談に乗っていた。
 その死因は新型コロナウイルス感染による呼吸不全だった。脳腫瘍の進行による麻痺などの治療のために入院していた、中野江古田病院(東京)で院内感染した。彼女の経過は新型コロナによる死亡を考える上で貴重な例であるため、ご紹介したい。
 彼女が新型コロナ感染と診断されたのは四月十一日だった。中野江古田病院で、看護師の感染が確認されてから十日後だ。院内感染は急拡大し、十二日には八十七人の集団感染が判明した。知人は危機感を抱いたが、病院から説明はなく、院内の情報はメディアを通じて得るしかなかった。
 母親の状態は急速に悪化した。十三日には発熱し、十五日には肺炎と診断された。CT検査では、右肺の下葉がおかされ、残る左肺にもコロナ肺炎に特徴的なすりガラス陰影を認めた。呼吸苦を緩和するため、毎分五リットルの酸素投与が必要となった。
 新型コロ・・・