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WORLD

インドを蝕む「疫病地獄」

コロナ強硬策で人口大国の危機

2020年6月号

「コロナ危機がはじまったとき、インド製の個人防護用具(PPE)キットは一つもありませんでした。N95マスクはわずかしか生産していませんでした。しかし、我々は今、毎日二十万のPPEキットとN95マスクを生産する状況になっています。インドがこの危機を機会に変えたからこそ実行することができたのです」
 ナレンドラ・モディ首相は五月十二日、テレビ演説で「自立したインド」とのスローガンを何度も繰り返し、国民を鼓舞した。疫学的懸念が小さい早期の段階でも迅速かつ厳格なロックダウンを断行したことで、モディ首相の支持率は各世論調査で概ねコロナ危機前の七〇%から九〇%に上昇しており、人気は絶好調だ。欧米などと比較して抑え込みにそれなりに成功した、という国民の認識、自負が背景にある。
 だが、その認識が間違っていたことに気づくまでそう時間はかからないはずだ。連日気温四十度前後の猛暑の中、長期のロックダウンによる社会的混乱と経済停滞、そして感染拡大が同時に起こっており、今後さらなる爆発的拡大に向かっているのは素人目にも明らかだからだ。インドは今、独立後最大の社会的、経済的危機を迎えている。・・・