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連載

皇室の風 第141話

千里の藪
岩井 克己

2020年5月号

 「この数十年間で最悪の名づけは平成といふ年号だった。不景気、大地震、戦争とろくなことがないのはこのせいかも、と思ひたくなる」
 作家丸谷才一がこう書いたのは平成十六(二〇〇四)年五月四日付朝日新聞のコラムだった。
 言語学者大野晋の説を援用し、原始日本語の「ア」「イ」「ウ」「オ」の母音体系に後来で加わった「エ」は、概して悪意の侮蔑的なマイナスの言葉を生んだという。「エセ」「セコイ」「ヘーコラ」「ヘツラフ」「ヘナヘナ」……。平成の読み「ヘエセエ」には、このエ列音が四つも並ぶというわけだ。
 中国の年号で「平」の字が上に来るものは一つもないし、日本でも唯一の「平治」は戦乱で翌年には改元となったとも指摘した。
「まいったよ。全く知らなかった」
 首相官邸で首席内閣参事官、官房副長官など通算十三年間にわたり中枢を仕切り、元号の準備にも関わった元宮内庁長官藤森昭一が筆者に嘆息した記憶は今も鮮明だ。
 それにしても、丸谷もずいぶんあけすけに書いたもので、よくぞ筆禍とならなかったものだ。
 その後も、・・・