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連載

現代史の言霊  第25話

五月の叛乱 1980年(韓国・光州事件)
伊熊 幹雄

2020年5月号

 一九八〇年
《約束を果たせなくて申し訳ない》

文在寅(韓国大統領)

 昨年十二月十二日の昼時だ。
 韓国の首都ソウルの繁華街江南にある、高級中国料理店に、高齢の男性たちが集まった。ワインを楽しむ男たちの中心にいたのは、全斗煥元大統領。国防相を経験した鄭鎬溶、崔世昌の顔もあった。
 四十年前の一九七九年のこの日、当時「国軍保安司令官」だった全少将が、腹心の軍幹部と図って「粛軍クーデター」を起こした。記念日の、昔の将軍たちの宴だった。
 革新系韓国人記者は「全は死刑判決(後に特赦)を受けた身で、他の軍人たちも刑事訴追を受けた。白昼堂々、クーデターの宴とは、どういう国なのだ」と憤った。
 七九年は韓国激動の年だった。
 十月二十六日、十六年にわたって独裁を敷いてきた朴正熙大統領が暗殺された。戒厳令下で、新任の崔圭夏大統領と鄭昇和陸軍参謀総長は、強権政治を緩め始めた。全国の大学や労働組合で、「ソウルの春」という民主化気運が起きた矢先、全らは「粛軍」を掲げ、鄭参謀総長を・・・