三万人のための情報誌 選択出版

書店では手に入らない、月刊総合情報誌会員だけが読める月間総合情報誌

社会・文化

パチンコと国会議員の「深い絆」

コロナ禍でも営業自粛を免れる理由

2020年4月号公開

「東日本大震災のときと同様、なんとか逆風に耐えて、やり過ごしたいというのが本音だ」
 関東で十軒程度のパチンコ・ホールを展開する企業の幹部はこう話す。新型コロナウイルスの感染者数拡大が続く中、ネット上などでは「なぜパチンコ店は営業を続けられるのか」という疑問の声が上がっている。
「不要不急」の最右翼と言っても過言ではないパチンコが、新型コロナ禍の最中でも店を開け続けられるのは、この業界が政治家、特に現政権と「お友だち」であることと無縁ではない。アベトモばかりが優遇されるのが政権の習い性だが、パチンコ業界との蜜月もご多分に漏れずひどい。
 三月十日の官房長官会見で、記者から「パチンコ店への営業自粛要請はしないのか」と問われた菅義偉はこう回答した。
「政府の基本方針を踏まえ、(警察庁が)パチンコ業界で適切な対応を取られるよう指導するだろう」
 質問への答えになっていないが、要するに「自粛要請しない」ということだ。ご存知の通り、政府は不特定多数が集まるイベントの開催自粛を要請し、損失の補償もないままに全国各地で催しが中止に追い込まれている。また首相、安倍晋三は二月の記者会見で、新型コロナ感染リスクの高い場所として、スポーツジムとビュッフェ方式のレストランを名指しした。さらに政府の専門家会議ではライブハウスやカラオケボックスが危険な業態であるとされ、これら業界は甚大な打撃を受けている。

「パチンコ議連」も健在

「政治家とパチンコ業界は歴史的にみても繋がりはあったが、現政権は特別だ」
 こう語るのは二十年以上にわたって取材を続けてきた業界誌記者の一人だ。安倍が父親の時代から、地元山口県のパチンコ・ホールの支援を受けてきたことは周知の事実。選挙事務所もパチンコ企業の保有ビルの中に設置するほどの関係だった。
 中でも、業界大手のパチンコ台メーカー、セガサミーホールディングスの会長、里見治との話は避けて通れない。二〇一三年に里見の娘が、経済産業省出身の鈴木隼人(現衆議院議員)と結婚したときの披露宴には、安倍だけでなく菅も参列している。政権が力を入れた統合型リゾート(IR)法に関連し、菅の地元である横浜のカジノ参入表明で、セガサミーの参加が有力視されていることは決して偶然ではない。
 昨年九月に国家安全保障局長を退任した谷内正太郎は、IR法案成立について安倍に強く働きかけをした人物の一人として知られる。その谷内が「退任後にセガサミーの顧問に復帰した」(前出記者)という。安倍政権を支えた人物が再びパチンコ業界の禄を食むのだ。
「議連」も健在である。パチンコ・チェーン・ストア協会(PCSA)はホールの業界団体のひとつ。ここに「政治分野アドバイザー」という名目で、四十人の国会議員が加わっている。自民党は最多の二十二人が名を連ね、野田聖子や山本有二といった重鎮議員もいる。これ以外に、日本維新の会(七人)や国民民主党(七人)、立憲民主党(四人)という野党議員も加わっている。これでは野党もパチンコ業界を批判することは難しい。他に、遊技業振興議員連盟もあり、重複して参加している議員もいる。
 また、前述したセガサミーのように、パチンコ業界の複数の企業がカジノへの参入を狙っている。パチスロ機メーカー大手のユニバーサルエンターテインメントなどが有名だ。そして、PCSAアドバイザー議員のうち、十人がIR議連、すなわちカジノ議連のメンバーである。
 そして昨年五月に設立された最新の団体が「全日本遊技産業政治連盟」だ。これは同年七月に行われた参議院議員選挙で、自民党の比例区から出馬した元参院議員の尾立源幸を支援するためのもの。尾立の後援会長には、パチンコ店の全国団体である全日本遊技事業協同組合連合会(全日遊連)の理事長、阿部恭久が就くなど、史上初の「パチンコ業界組織内候補」ともいうべきものだった。蓋を開ければ、尾立の得票数は十万票に満たず当選には至らなかったが、「公認したこと自体が破廉恥」と語るのは自民党の重鎮議員だ。

業界を擁護する官房長官

「さまざまな業界の代弁者である族議員の存在は否定しないが、パチンコはありえないだろう。公認した党執行部の品位を疑う」
 かつて民主党の参院議員だった尾立の自民党入りを認め、公認を決めたのは幹事長の二階俊博自身である。
 冒頭に紹介した官房長官会見で菅は新型コロナ対策についてこう言及している。
「(パチンコ)業界の自主的な取り組みとして、集客目的の広告宣伝の自粛を各営業所に求めたほか、感染拡大を受けて休業日を設けた営業所もあると聞いている」
 これでは「パチンコ業界の取り組みを認めてあげて」と擁護する代理人だ。冒頭のパチンコチェーン幹部が語る。
「最も大事なのは目立たないようにすること。そして頑張っているアピールをすることが重要」
 パチンコ業界は東日本大震災の際に、これを学んだ。当時、計画停電が実施されている中での営業について激しい批判を浴びたパチンコ業界は、節電などに加えて、集客の要である新台入れ替えイベントなどを自粛して乗り切った。
 今回も、全日遊連は二月二十八日から、加盟店に対してイベントや広告の自粛を求めている。しかし、三月十三日までに都合四回も要請が出されており、どれだけ自粛されているかは甚だ怪しい。
 会見で菅は、「遊技機のハンドルなどの消毒を要請している」と話したが、こちらについてはもっと眉唾だ。警察庁に加えて、全日遊連などが繰り返し店内消毒を呼びかけているのは事実である。しかし三月中旬に東京・新宿の大規模パチンコ・ホールで一時間観察したところ、ある一台のパチンコに四人が入れ替わり立ち替わり座ったが、この間、店員が台やハンドルを消毒することはなかった。
 店内に感染者が居たことが判明した場合の対応もまちまち。二月末に新型コロナ陽性者が来店していたことが判明した、大阪府堺市のパチンコ店は三月七日から六日間の臨時休業後に再開した。一方で、店内清掃を行っていたスタッフが陽性であることが判明した大阪府和泉市のマルハンの店舗は、三月二十四日に店内消毒を行い、翌日には通常営業を行っている。
 不特定多数が出入りする上、口周辺を触る喫煙者の割合も多いパチンコ店が安全な場所といえるだろうか。営業自粛を求めれば、政権への支持が集まりそうなものだが、一向にそうした動きはない。安倍政権にとっては国民の健康よりも、パチンコ店の存続のほうが大事なようだ。(敬称略)


掲載物の無断転載・複製を禁じます©選択出版

この記事を読んだ人はこんな記事も読んでいます