三万人のための情報誌 選択出版

書店では手に入らない、月刊総合情報誌会員だけが読める月間総合情報誌

経済

東芝・車谷が「MBO」画策の仰天

物言う株主「放逐」は叶うか

2020年4月号公開

 二〇一八年四月の代表執行役会長就任以来、二三年度までの営業利益率八%以上という中期経営計画の達成のための地盤固めに努めてきた東芝の車谷暢昭CEO。四月からは、東芝外部出身者としては四十八年ぶりとなる社長に就任し、社内の権力を一手に集中させる。三月末には東証一部復帰のための予備審査の申請を行い、六月の株主総会後に決算書を東証に提出して本審査に入り、早ければ今秋十月にも東芝は晴れて三年ぶりに東証一部に復帰する見込みだ。
 そんな車谷の究極的な目標は、「東証一部復帰後にマネジメント・バイアウト(MBO)を行い、うるさい少数株主を追い払い自身の肝いりの中期経営計画を達成すること」と車谷に近しい人物は明かす。既にスポンサー候補には、車谷が過去に日本法人会長兼共同代表を務めた古巣であるシーヴィーシー・アジアパシフィック・ジャパン(CVC)や、車谷と同じく旧三井銀行出身の佐山展生が率いる日系バイアウトファンドのインテグラルの名前が挙がっている。

心の拠り所は「CVC人脈」

 車谷は旧三井銀行の生え抜きで、三井住友銀行の幹部時代は、頭取候補として東京電力への融資をいち早く決めるなど目立つディールで辣腕を振るい、官邸や経済産業省からの覚えもめでたく、メディア関係者との距離も近い。「メディアコントロールは俺に任せろ」などと三井住友銀行時代は行内で吹聴していた。
 しかし「自分を大きく見せるために話を盛りがちで、ありもしない部下からの賞賛をでっちあげて上司に語って、あっさりバレたことも」(三井住友銀行の行員)という性格が災いし、行内で人望を得られず、結局は副頭取どまりで、外部に活路を見出すこととなった。
 東芝に移っても性格は変わらず、「綺麗な絵だけ描いて実行は丸投げ」(東芝社員)なため生え抜きからの信頼は薄く、「唯一気の置けない相手は内部管理体制推進部担当の執行役専務である豊原正恭ぐらい」だ。「車谷は内心では信用していない平田政善を代表執行役専務CFOから外さず、また、綱川智を社長に置き続けている。どちらも、社内の人心を維持するため」(同前)だという。
 一七年十一月の六千億円の増資の際に受け入れたアクティビストファンドを中心とする外国人株主も、車谷にとって忌々しい相手だ。一八年のCEO就任直後の株主総会では取締役選任案に六三%の賛同しか得られず、一八年十一月に七千億円の自社株買いを行い、一九年六月には外国人株主からの要求を呑んで四人の外国人の社外取締役を受け入れた。
 利益相反が指摘される親子上場を行っている四社についても、東芝テックを除く三社は完全子会社化を行った。議決権を盾に隙あらば事業の撤退・売却か自社株買いを求めてくる外国人株主への車谷の嫌悪感は凄まじい。
「経団連でアクティビスト対策セミナーをやろうとしている」
「同じく少数株主からの突き上げを食らっていた東証一部上場企業の元社長と共に“株主嫌いの会”と題した飲み会を頻繁に開催」
「株主から届く贈り物はすべて開封もせず送り返す」
 車谷に関するこうした虚実入り混じったエピソードが漏れ伝わってくるのも頷ける。車谷は、社内と株主からの板挟みに加え、古巣の三井住友銀行には後ろ足で砂をかけて辞めた関係で「あの人はもう三井住友の人じゃないですから」(三井住友グループ関係者)とまで言われる。
 そんな車谷の心の拠り所は、投資ファンドCVCの人脈だ。社外取締役に自ら招き入れ、外国人株主との折衝を依頼している現CVCの日本法人最高顧問である藤森義明とは「平日は銀座や六本木のバーを共に飲み歩き、週末は軽井沢でゴルフを楽しむほどの仲」(藤森の関係者)。取締役会でも常に隣り合って座る。
 藤森の出身である東京大学のアメリカンフットボール部の後輩でありCVC日本法人代表の赤池敦史も二人の会に頻繁に顔を出している。赤池は東京大学卒業後、コンサルティングファームのマッキンゼー・アンド・カンパニーを経てPEファンドのアドバンテッジパートナーズに参画。同社のシニアパートナーまで務め一五年よりCVCに移籍した。CVCはグローバルで約四兆円を運用する欧州最大のPEファンド。だが、日本では米系投資ファンドのベインキャピタルやカーライル、KKRに日立の子会社買収などの大型案件を全て持っていかれ、投資実績が乏しい。「LIXILグループの創業家である潮田洋一郎のスポンサーとなってMBOを仕掛けようとしたが失敗し、CEOが潮田さんを追い出した瀬戸欣哉に代わったことから出入り禁止になった」(証券会社関係者)。
 大型買収を手掛けるべしという本社からの圧力がかかる赤池が、喉から手が出るほど欲しいのが東芝だ。ベインやKKRがコロナショック以降、投資先の評価損に苦しむのを尻目に、東芝買収後の各事業部門の売却までプランを立て、売却先候補の社長との面会まで進めている。
 インテグラルの佐山展生も東芝に目を光らせている。インテグラルの運用額は約八百億円に過ぎないが、出資元の投資家から資金を募り、運用額を遥かに超える投資も可能だ。「一七年の東芝の六千億円の増資の際には、海外投資家を束にしたゴールドマン・サックス(GS)よりも早くスポンサーを集めて当時の綱川社長と経産省にプレゼンテーションしたが、結局GSが選ばれたという因縁がある」(佐山の知人)。足元では自身が会長を務めるスカイマークの上場延期が取りざたされているが、「一兆円規模の大型案件を早期にやりたい」と周囲に熱弁を振るう。

非上場化し「自分の城」に

 コロナの世界的流行に伴う日経平均株価の暴落以降、東芝の時価総額は三月下旬には一時一兆円を割り込んだ。これは、約三・五兆円の時価総額で上場予定のキオクシア(東芝メモリ)の東芝保有分四〇%の評価額一・四兆円を下回る。つまり東芝メモリ以外の東芝の事業はマイナス評価されているに等しい。
 東芝株を約一一・三%保有するエフィッシモ・キャピタル・マネージメントや五・二二%を保有するキング・ストリートをはじめ、未だ多くのアクティビストはこうしたねじれに目をつけて東芝の株主を続けている。
 車谷は外為法改正案を「アクティビスト対策法」にすべく官邸に足しげく通ったり、東証一部上場復帰により日系の機関投資家に組み入れさせ、アクティビストの持ち分を減らすことに執心している。「日経平均の急激な下落で、撤退を迫られる海外ファンドも出始めている」(前出証券会社関係者)という状況は、車谷に有利に働いている。
 うるさい少数株主を黙らせた後の車谷の目標は、東芝を非上場化し「自分の城」にすることであろう。(敬称略)


掲載物の無断転載・複製を禁じます©選択出版