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経済

三菱UFJ「異例の新社長」の難路

メガ銀トップ奪還への「重い課題」

2020年2月号公開

「あまりに不規則な人事を続けていると、遠からずみずほのようなカオス状態に陥ってしまうのではないか」。旧三菱銀行OB幹部の一人がこんな不安を口にする。
 みずほではグループ発足以来、経営の主導権を巡り、旧三行が十年近くにわたって内部抗争を繰り広げた。将来のトップマネジメントの担い手となるべき人材のキャリアパスも確立できておらず、自薦・他薦のトップ候補が乱立してそれぞれが一派を形成。これらが派閥争いに明け暮れたことで、組織と企業統治の混乱にさらに輪をかけるといった「醜態」(旧第一勧業銀行OB首脳)も演じた。
 その対極にあるとされてきたのが三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)だ。早くから「プリンス」と呼ばれる人材を選別して企画や人事といった経営の中枢部門に配し、英才教育を施して帝王学を身につけさせる。周囲も当然のようにその人材をもり立てようとするから陰惨な権力闘争もほとんど起こらず、従って派閥も生まれない。社内の秩序や規律を重んじる、まさに「組織の三菱」の面目躍如ともいえる「後継者育成システム」(MUFG幹部)をつくり上げてきた。
 そのMUFGがここにきて「掟破り」(事情通)ともいえるトップ人事に打って出た。次期社長兼CEO(最高経営責任者)に今年四月一日付でグループのデジタル事業を統括する亀澤宏規副社長を昇格させることを決めたのだ。昨年社長に就任したばかりの三毛兼承氏はわずか一年で交代。新たに副会長となる一方、三年前からつとめる三菱UFJ銀行頭取としての職務に集中する。

「振り向けばみずほ」

 亀澤氏は一九六一年生まれの五十八歳。東京大学理学部数学科を卒業後、同大学院で整数論を研究したという異能の持ち主だ。理系出身者がメガバンクグループのトップに就任するのが初めてなら、傘下銀行の頭取を経験しないまま持ち株会社の社長に就くのもMUFGとしては初めて。三毛氏は六十三歳のため持ち株会社と傘下銀行トップの年次も初めて逆転する。
 また為替や債券売買などを手掛ける市場部門が長く、「本流」とされている企画や人事部門を担った経歴を持たない点でも亀澤氏は異色だ。三毛氏も国際部門出身で企画・人事の未経験者だが、これは前任頭取だった小山田隆氏(現三菱UFJ銀行特別顧問)が二〇一七年、体調不良により在任一年余にして辞任するというアクシデントに見舞われたことによる、いわば“緊急登板”だったため。正統性の下で敢えて「傍流」に巨艦の舵取りを委ねるのは、これもグループ発足以来となる。
 とはいえトップへの登竜門が複線化・複々線化し、その不確実性が増すほど社内に人事を巡る様々な軋轢や対立の萌芽を生むリスクは高まる。冒頭のOB幹部が“みずほ化”を懸念するゆえんだが、それでも異例の人事に踏み切ったところに、現下の情勢に対するMUFGの危機感と焦燥感があるのだろう。
 その正体は年とともに低下している収益力だ。マイナス金利政策が導入される一年前の一五年三月期、MUFGの連結業務純益は一兆六千四百四十九億円に達していた。それが一九年三月期には一兆七百八十六億円と四年間で三分の二までに目減りする始末。おまけに一兆一千九百二十三億円を叩き出したライバルの三井住友フィナンシャルグループ(SMFG)に抜かれ、メガバンク二位へと転落した。
 二〇年三月期は一兆八百億円とわずかながらとはいえ四年ぶりに増益に転じる見通しだが、一兆一千三百五十億円を計上する見込みのSMFGを追い越せない。MUFGの総資産は一九年三月末で三百十一兆円、SMFGは二百三兆円。規模で百兆円を上回る、圧倒的な差をつけながらのていたらくだ。
 原因は明白だ。グループの中核を担う三菱UFJ銀の収益基盤の劣化だ。何しろ一九年三月期における銀行単体の実質業務純益は三千八百八十四億円と、一兆円を超えていた一六年三月期(一兆九百七億円)の半分にも満たない低水準。一七年三月期以降はこちらも三井住友銀行(SMBC)の後塵を拝し続け、一九年三月期には収益格差は約二千億円にまで拡大。行内の一部からは「振り向けばみずほ」といった自虐ネタさえ漏れる。
 両者の明暗を大きく分けているのは効率性だ。一九年三月期のMUFGの経費率は七一%と七割を突破している。これに対しSMFGは六〇・二%で六割強に過ぎない。銀行単体で比べるとその差はさらに顕著で、SMBCが五八・二%と六割を切る水準でオペレーションを行っているのに対し、三菱UFJ銀は七四・七%。これでは収益格差が広がるのも当たり前か。
 銀行業は装置産業。「規模の利益」が比較的働きやすいとされてきた。そのためMUFGではこれまで、M&Aも駆使しつつ資産を積み上げることで利益成長につなげる戦略をとってきた。だが、いくら資産を積み上げても超低金利の長期化で利ザヤが縮小する中、トップライン(業務粗利益)はいまや思うようには上がらない。それどころか過去の拡大路線のツケが回る形で物件費や人件費といったコスト負担の比重だけが増大し、大きな足かせとなっているわけだ。

手ぬるいリストラに厳しい視線

 新社長となる亀澤氏に課せられているのは何はさておき、こうして過剰に抱え込んでしまった店舗や人員に大胆にメスを入れ、収益力を取り戻すことだろう。とりわけ国内の中小法人や個人などを取引基盤とする法人・リテール事業本部は、経費率が八一%(一九年四~九月期)と八割超にまで膨張している有り様。「ことリテールだけとれば赤字」(事情通)とさえ取り沙汰されている。人口減少の加速で、資産積み上げ型の成長モデルが最早「現実離れのシナリオ」(金融庁筋)と化す中、抜本的な構造改革は待ったなしの状況だ。
 三毛体制下でMUFGはAI(人工知能)チャットボットやAI-OCR(光学文字認識機能)などを活用したデジタル化を進めることで二四年三月期までにひとまず一万人分規模の業務量を削減。フルバンキング店舗を機能特化型の店舗に衣替えするなどで店舗数を三五%圧縮し、人員を一八年三月期比で六千人削減するといった計画を打ち出している。
 ただデジタル化は費用先行で、将来的にどこまでコストの圧縮に結びつくのか不明だ。店舗ネットワークのスリム化は行員の間に「要するに支店長になれない行員が増えるだけ」との不満を広げている。また人員削減六千人といってもいわゆるリストラではなく、中身は自然減。市場関係者からは「迫力不足のうえ、スピード感にも欠ける」と辛辣な評価があがる。
 一方でフィンテックなどデジタルビジネスに精通しているとされる亀澤氏だが、それを今後、グループの収益にどう落とし込んでいくのかはこれから。現時点で必ずしも明確な絵図が描かれているわけではない。厳しい難路となりそうな情勢だ。
 


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