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経済

《クローズ・アップ》林 欣吾(中部電力次期社長)

首都圏侵攻と「原発処分」を背負う

2020年3月号

「次は技術屋からは出さない」
 中部電力の周辺では、事前に川口文夫顧問のこんな発言が流布していた。その言葉通り技術系社長が三代続いた中電は、事務系の林欣吾専務が四月一日付で新社長に昇格する。いや、事務系どころか、林氏は過去の不文律を破り、公的管理の東京電力ホールディングス(HD)を除けば、電力業界初の販売部門出身の社長である。
 その理由は、四月に発販分離し、一段の競争に臨む中電の舵取りには販売の知見が不可欠という事情もあるが、この局面はこの人しかいなかったということだろう。
 中電は水野明久会長の社長時代、
経済産業省の肝煎りで東電と包括提携を結び、すでに燃料・火力部門は共同会社のJERAへ全面移管した。その是非をめぐり社内は一時動揺したが、水野氏の下で包括提携を進めた増田義則副社長が勝野哲社長に忌憚されて取締役を外れ、一方、勝野氏の子飼いの平岩芳朗専務が系統技術者を理由に排除されるとなれば、残るのは林氏しかいないのだ。とはいえ、その登用は消去法の人事ではない。
 林氏の自由化を先取りした料金戦略や、東京駐在時代の人脈を駆使した提携交・・・