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連載

本に遇う 第242話

虚言あふれる時代に
河谷 史夫

2020年2月号


 活字離れがいわれる。出版不況で本が売れない。新聞も売れない。一方でツイートだのソーシャルメディアだの片言がはびこる。ひたすら酒と本と新聞で明け暮れているわたしなどは、もはや時代から弾き出されそうである。
「本を読もう。/もっと本を読もう。/もっともっと本を読もう。」とうたった詩人の長田弘が七十五歳でこの世を去って五年になる。稀代の読書家はこんな時勢に見切りをつけたのかも知れない。
 元日、ぼんやりテレビを見ていたら、塩野七生が学習院高等科で授業をしている。八十二歳の講師が何を言うのだろうと思った。
「これから日本も世界もどうなるか分からない。あなたたち、免疫をつけなさい」といきなり切り出し、「免疫をつけるためには、本を読むことよ。本を読んで、教養をつける。それ以外にありません」と断言した。どう?といった目で媼が見渡す階段教室には、いかにも良家の子女然とした生徒の真剣な顔つきが並んでいる。
 授業に一時間付き合った。「ローマ」を舞台の長大な物語を書いた歴史小説家は、「見苦しいことはするな」と教示するとともに、畢竟「自分で本を読め」とい・・・