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連載

《世界のキーパーソン》パベル・コロブコフ(ロシア・スポーツ相)

ドーピングの闇の全てを知る男

2020年1月号

 彼のデビューは、まだソ連が盤石に見えた、一九八五年のことだ。十五歳で、フェンシング男子エペのソ連選手権に初出場。二年後の八七年には世界ジュニアの王者になった。八八年のソウル五輪で、団体の銅メダル獲得に貢献した。
 次のバルセロナ五輪では、ソ連が崩壊しロシアになっていたが、コロブコフの剣にはますます磨きがかかり、団体で銅、個人で銀。シドニーでの個人の金を最高に、五輪五大会に連続出場して計六つのメダルを獲得した。若き童顔の天才剣士は、テレビのバラエティー番組でも人気を博した。
 これだけのレジェンドが、政治の世界に進むのは洋の東西を問わない。二〇一〇年、当時首相だったウラジーミル・プーチン現大統領によって、スポーツ担当次官に起用された。一二年には、ロンドン五輪のロシア選手団団長として、再び五輪の舞台に舞い戻った。
 華やかな経歴が暗転するのは、一五年十一月のことだ。世界反ドーピング機関(WADA)がロシアの組織的違反を認定した。次官として、WADAのロシア代表だったコロブコフは、同機関から追放を言い渡された。
 元世界王者は、いったいどの時点から国・・・