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連載

本に遇う 第240話

オリンピックの虚実
河谷 史夫

2019年12月号

 オリンピックのマラソンが、東京ではなく札幌開催になったのには笑ってしまった。マラソンのないオリンピックなんて、何とかのないコーヒーみたいなものじゃないか。もっともヨーロッパから遠く極東を望めば、東京も札幌も変わりはないのであろうよ。
 ドーハの世界選手権で深夜に走ったマラソンの選手がばたばたと棄権した。この珍事にIOC(国際オリンピック委員会)が鶴の一声を発したというが、東京都は寝耳に水だったとかで、「ばかにするな」と頭に来たのも無理はない。
 しかし東京都や組織委員会とIOCの間には「開催都市契約」というのが結ばれていて、「何か解決できない問題がある場合、IOCが最終的な決定を行い、東京都や組織委員会は、新しい指針および指示の全てに対応しなければならない」と規定した条文があるそうだ。まさにこれは、絶対権力は連合国軍総司令部(GHQ)が握り、政府は何事もその命令に従うしかなかった敗戦後の日本の立場にそっくりである。IOCに「マラソンを札幌に移せ」と言われたら、東京都は聞くよりほかない。「闘う女」を演じたがる小池百合子が知事として抗って見せても無駄だった。
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