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連載

Book Reviewing Globe 427

悲劇の感覚を失った米国

2019年12月号

 台頭国と覇権国のヘゲモニー闘争がしばしば戦争をもたらすことを根拠に二十一世紀の米中対決の危険に警鐘を鳴らしたグレアム・アリソン・ハーバード大学教授の「ツキジデスの罠」とは、むしろ悲劇を反復学習することを怠った時に国々は衰退し、崩壊することを戒めた言葉ではなかったのか。
 悲劇は、秩序と制度を天から与えられたもののように当然視し、それを維持するには、自らが日々、営々と耕さなければならないものであることを怠るところに生まれる。
 戦後の国際秩序を超人的な努力でつくったのは米国だった。一九四八年、米国がマーシャル・プランと対日援助につぎ込んだ資金は対GDP比で五%に上った。五〇年一月、米国は朝鮮半島を「戦略的に不要」な地域と見なしたが、その半年後、北朝鮮が韓国を侵略したとき、断固、韓国を守るために軍を送った。
 こうした米国の断固たる決意の下に生まれた自由で開かれたルールに基づく国際秩序(リベラル・インターナショナル・オーダー)はいま、音を立てて崩れている。
 とりわけ中国の挑戦は、ツキジデスがスパルタに敗れたアテネについて記した表現を使えば「強大な・・・