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WORLD

英仏で瓦解する「公的医療制度」

西欧の模範が「病院機能不全」の苦境

2019年12月号

 英国とフランスが世界に誇る医療制度が、大混乱に陥っている。
 英国の国営医療制度「ナショナル・ヘルス・サービス(NHS)」は今年、救急部門の待ち時間が近年で最悪となり、簡単な手術を待つ患者は四百四十万人に達した。もはや制度の破たんが明白で、十二月十二日投票の総選挙では、英国の欧州連合(EU)離脱問題さえ上回る関心事項になった。
 フランスの公営救急外来病院では、医療スタッフのストライキが今年三月から断続して行われ、エマニュエル・マクロン大統領の最優先課題に浮上している。
 NHSの待ち時間は悪名高いが、今年十月にコベントリーの病院で起きた事件は衝撃的だった。
 八十四歳の男性は、腹痛を訴え、娘に付き添われて来院した。廊下でストレッチャーに寝かされ、六時間も放置されたのだ。
 看護師経験のある娘は、見る見る悪化する容態を再三スタッフに訴えたが、相手にされない。日付が変わった午前零時過ぎに、ストレッチャーから滑り落ち、午前一時前に死亡した。娘は「自分もたくさんの患者と相対したが、ここまでひどいことはなかった」と、泣きながら訴えた。
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