リクルート「企業情報漏洩事件」の深刻度
なぜ公表も報道もされないのか
2019年10月号公開
「リクルートに染みついた『低モラル』体質は拭い難い。グループのDNAに刻み込まれているのだろう」
ある同社OBはこう語る。多くの社員が三十歳代で退職して、各方面で活躍する人材を輩出してきたリクルート。しかしこのOBは同グループの「儲かればいい」という体質に疲れて会社を去ったと語り、そうした出身者も多いとこぼす。かつてのリクルート事件にも通じる同社の体質が改めて浮き彫りになっているが、相次ぐ不祥事の隠蔽やメディアにおける「リクルートタブー」もあり、問題の核心は放置され続けている。
メディアにおける「タブー」
本誌九月号に掲載された「リクルート『銀行参入』が間近に」という記事は波紋を広げた。しかし一方で、同記事が触れたグループ内部における隠蔽問題については続報がほとんど出ていない。
「リクルートはグループを挙げて大量の広告を出稿している。そのためテレビはもちろん、新聞社もあまりモノを言いにくい」
電通関係者はこう語る。リクルートホールディングスの広告宣伝費は「年間約六百億円で推移している」(同関係者)。これは、単独決算ベースでは国内ナンバー1の座を守り続けており、メディアにとって「最重要クライアントに位置づけられる」(同前)。テレビでは同グループ会社が運営する「じゃらん」や「ホットペッパー」「SUUMO」に「タウンワーク」といったサービスのコマーシャルが大量に流れている。新聞にもこれらの広告が掲載されるほか、近年、新聞社のリストラで、コンサルティングをリクルートのグループ企業が担うことも多く、「密接な関係にある」(同前)のだ。
その結果、リクルートについての報道は及び腰になる。今夏に明らかになった就職情報サイト「リクナビ」における「内定辞退率情報販売問題」について、テレビではNHK以外、ほとんどの局、番組が正面から取り上げなかった。
学生の就職活動の状況から「内定辞退率」なる数字を勝手に算出した挙げ句、そのデータを企業に五百万円前後で売却していたのはグループ会社の「リクルートキャリア」。学生本人が知らないうちに「この学生は内定を辞退する可能性が高い」などと企業側に知らされていたのだから、かなり悪質なものだった。事実、政府の個人情報保護委員会は史上初めて是正勧告を出す事態となり、これとは別に厚生労働省は職業安定法に基づく行政指導を行っている。新聞ではある程度の報道があったものの「問題の深刻度を考えればスペースはまだ少ない」(全国紙記者)との声が内部から聞こえてくる。
本誌九月号の記事では同社グループにおける二件の「不祥事隠蔽」をスクープしている。特に金融事業を担うグループ会社「リクルートファイナンスパートナーズ(RFP)」の一件は、銀行構想とも関連する分野であるため深刻だ。さらに詳細な内容や最新の状況について、ここで改めて掘り下げよう。
RFPでのシステム開発や保守は、同じグループ企業である「リクルートテクノロジーズ(RTC)」が担っていた。そして、RTCを昨年退職した元社員が、RFPの「機密情報を含む数千件のファイル」(RTC関係者)を不正にコピーした上、クラウドサービス上や記憶媒体に保管していたことが、五月の内部監査によって発覚したのである。
RTCや監査法人の対策チームが調査を行った結果、持ち出されたデータについては、第三者に渡されるなどの「二次流出」はなかったと結論づけている。しかし、前出RTC関係者によると、「元社員が使用していた一部機器は、初期化などされていたため、履歴を完全にトレースすることができず、『二次流出がない』という結論は、聞き取りなどを基にした、ある意味で曖昧なもの」だという。
RFPは、リクルートグループと取引のある宿泊施設や飲食店などに融資を行う「貸金業者」だ。今回の調査報告書では「顧客情報の流出はなかった」としているが、取引情報などが漏れた可能性は否定できない。また、同社における情報管理体制が杜撰であることも浮き彫りになっている。
「六月に入ってリクルートは金融庁への報告を行っているが、同庁の心象は良くない」
金融庁担当記者はこう語り、「リクルート銀行設立構想」に思わぬケチがついてしまったと打ち明ける。しかも、RFPは貸金業者としての同社を所管する東京都への報告を七月に行ったのち、この事実を現時点でも公表していない。「メディアからの問い合わせには、『再発防止に努める』といった通り一遍の回答をしているが、自ら謝罪するつもりはない」(同社関係者)ようだ。
「リクルート銀行」の危うさ
「九月に入り社内向けに事実関係の説明はあったが、『顧客情報は漏れていない』というところを強調するばかりで反省の色はない」
前出関係者はこう語る。こうした態度は、五月に発覚した「消費税不払い問題」においても同様だ。これは、リクルートのグループ企業が、外部の法人や個人に依頼した原稿の報酬に、消費税分を上乗せせずに支払っていた問題。「リクルート側が請求書に消費税を上乗せしないように要求していたケースもあった」(社会部記者)といい、やり口としては悪質なものだった。
実はこれは国税局による税務調査の過程で発覚したもので、少なくとも今年二月の時点では、グループ各社で社内向けの説明が行われていた。ある社では、「あくまでもミス」「不正ではない」と説明され、「メディアに漏れても動じないように準備した」(某グループ会社社員)という。しかし前述した「タブー」のせいか、どのメディアもこの事実を報じることはなく、最終的に公正取引委員会が、不払い分の支払いを求める勧告を行った段階で各社は事実関係を短く伝えただけだった。
「リクルートが銀行に参入するのは自由だが、融資を利用する事業者にとっては危うい」
あるメガバンク関係者はこう指摘する。「貸し剥がし」や、融資を盾にした金融商品の「押し売り」は銀行業界で既に横行している。しかし、「儲かればいい」というリクルートグループが銀行を持ったときのビジネスモデルは、既存銀行よりも悪質なものになる危険性があるのだ。
リクルートは同社の既存サービスのおかげで、国内の多くの個人、法人の情報を掌握している。公正取引委員会が規制を検討しているGAFAに代表される巨大プラットフォーマーとして、「国内ではトップレベルの情報を持つのがリクルート」(ITライター)なのだ。反省なきまま、同社に銀行業免許を与えれば、脱法行為でボロ儲けする姿しか想像できない。
ある同社OBはこう語る。多くの社員が三十歳代で退職して、各方面で活躍する人材を輩出してきたリクルート。しかしこのOBは同グループの「儲かればいい」という体質に疲れて会社を去ったと語り、そうした出身者も多いとこぼす。かつてのリクルート事件にも通じる同社の体質が改めて浮き彫りになっているが、相次ぐ不祥事の隠蔽やメディアにおける「リクルートタブー」もあり、問題の核心は放置され続けている。
メディアにおける「タブー」
本誌九月号に掲載された「リクルート『銀行参入』が間近に」という記事は波紋を広げた。しかし一方で、同記事が触れたグループ内部における隠蔽問題については続報がほとんど出ていない。
「リクルートはグループを挙げて大量の広告を出稿している。そのためテレビはもちろん、新聞社もあまりモノを言いにくい」
電通関係者はこう語る。リクルートホールディングスの広告宣伝費は「年間約六百億円で推移している」(同関係者)。これは、単独決算ベースでは国内ナンバー1の座を守り続けており、メディアにとって「最重要クライアントに位置づけられる」(同前)。テレビでは同グループ会社が運営する「じゃらん」や「ホットペッパー」「SUUMO」に「タウンワーク」といったサービスのコマーシャルが大量に流れている。新聞にもこれらの広告が掲載されるほか、近年、新聞社のリストラで、コンサルティングをリクルートのグループ企業が担うことも多く、「密接な関係にある」(同前)のだ。
その結果、リクルートについての報道は及び腰になる。今夏に明らかになった就職情報サイト「リクナビ」における「内定辞退率情報販売問題」について、テレビではNHK以外、ほとんどの局、番組が正面から取り上げなかった。
学生の就職活動の状況から「内定辞退率」なる数字を勝手に算出した挙げ句、そのデータを企業に五百万円前後で売却していたのはグループ会社の「リクルートキャリア」。学生本人が知らないうちに「この学生は内定を辞退する可能性が高い」などと企業側に知らされていたのだから、かなり悪質なものだった。事実、政府の個人情報保護委員会は史上初めて是正勧告を出す事態となり、これとは別に厚生労働省は職業安定法に基づく行政指導を行っている。新聞ではある程度の報道があったものの「問題の深刻度を考えればスペースはまだ少ない」(全国紙記者)との声が内部から聞こえてくる。
本誌九月号の記事では同社グループにおける二件の「不祥事隠蔽」をスクープしている。特に金融事業を担うグループ会社「リクルートファイナンスパートナーズ(RFP)」の一件は、銀行構想とも関連する分野であるため深刻だ。さらに詳細な内容や最新の状況について、ここで改めて掘り下げよう。
RFPでのシステム開発や保守は、同じグループ企業である「リクルートテクノロジーズ(RTC)」が担っていた。そして、RTCを昨年退職した元社員が、RFPの「機密情報を含む数千件のファイル」(RTC関係者)を不正にコピーした上、クラウドサービス上や記憶媒体に保管していたことが、五月の内部監査によって発覚したのである。
RTCや監査法人の対策チームが調査を行った結果、持ち出されたデータについては、第三者に渡されるなどの「二次流出」はなかったと結論づけている。しかし、前出RTC関係者によると、「元社員が使用していた一部機器は、初期化などされていたため、履歴を完全にトレースすることができず、『二次流出がない』という結論は、聞き取りなどを基にした、ある意味で曖昧なもの」だという。
RFPは、リクルートグループと取引のある宿泊施設や飲食店などに融資を行う「貸金業者」だ。今回の調査報告書では「顧客情報の流出はなかった」としているが、取引情報などが漏れた可能性は否定できない。また、同社における情報管理体制が杜撰であることも浮き彫りになっている。
「六月に入ってリクルートは金融庁への報告を行っているが、同庁の心象は良くない」
金融庁担当記者はこう語り、「リクルート銀行設立構想」に思わぬケチがついてしまったと打ち明ける。しかも、RFPは貸金業者としての同社を所管する東京都への報告を七月に行ったのち、この事実を現時点でも公表していない。「メディアからの問い合わせには、『再発防止に努める』といった通り一遍の回答をしているが、自ら謝罪するつもりはない」(同社関係者)ようだ。
「リクルート銀行」の危うさ
「九月に入り社内向けに事実関係の説明はあったが、『顧客情報は漏れていない』というところを強調するばかりで反省の色はない」
前出関係者はこう語る。こうした態度は、五月に発覚した「消費税不払い問題」においても同様だ。これは、リクルートのグループ企業が、外部の法人や個人に依頼した原稿の報酬に、消費税分を上乗せせずに支払っていた問題。「リクルート側が請求書に消費税を上乗せしないように要求していたケースもあった」(社会部記者)といい、やり口としては悪質なものだった。
実はこれは国税局による税務調査の過程で発覚したもので、少なくとも今年二月の時点では、グループ各社で社内向けの説明が行われていた。ある社では、「あくまでもミス」「不正ではない」と説明され、「メディアに漏れても動じないように準備した」(某グループ会社社員)という。しかし前述した「タブー」のせいか、どのメディアもこの事実を報じることはなく、最終的に公正取引委員会が、不払い分の支払いを求める勧告を行った段階で各社は事実関係を短く伝えただけだった。
「リクルートが銀行に参入するのは自由だが、融資を利用する事業者にとっては危うい」
あるメガバンク関係者はこう指摘する。「貸し剥がし」や、融資を盾にした金融商品の「押し売り」は銀行業界で既に横行している。しかし、「儲かればいい」というリクルートグループが銀行を持ったときのビジネスモデルは、既存銀行よりも悪質なものになる危険性があるのだ。
リクルートは同社の既存サービスのおかげで、国内の多くの個人、法人の情報を掌握している。公正取引委員会が規制を検討しているGAFAに代表される巨大プラットフォーマーとして、「国内ではトップレベルの情報を持つのがリクルート」(ITライター)なのだ。反省なきまま、同社に銀行業免許を与えれば、脱法行為でボロ儲けする姿しか想像できない。
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