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連載

皇室の風 第134話

シミュラクラ化に抗して
岩井 克己

2019年10月号

令和の天皇の即位の礼、大嘗祭が目前に迫った。皇居の宮殿では京都御所から運ばれた高御座が組み上がり、東御苑では大嘗宮の築造も順調に進んでいる。
 約三十年前、戦後の象徴天皇の初めての皇位継承儀式の際は、戦前の「現人神天皇」の儀式をほぼ踏襲したため、天皇の「戦争責任」の影も絡んで激しい論争が交わされ、厳戒態勢下、過激派の金属弾も乱れ飛んだ。今回の静けさは隔世の感がある。
 今回も政府は「前例踏襲」として、平安時代の貞観儀式や記紀神話などを踏まえ、明治末に制定された旧登極令の儀式立てを「粛々と」再現する。
 昭和の大礼について政府が発刊した『昭和大礼要録』はこう明記していた。
「即位禮の淵源は 天照大神が皇孫 天津彦彦火瓊瓊杵尊を天つ高御座に即かしめられ、天璽の神器賜ひたるに由来す」
 登極令は帝国憲法の神勅天皇を賞揚する儀式体系として定められたのは明らかだ。
 令和でもほぼ忠実に再演される儀式だが、その意味論は「伝統」の一語で前回以上に徹底して回避され、メディアの関心も薄いようだ。歴史的位置付けや大嘗祭の「秘儀」をめぐる民俗学的、・・・