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連載

Book Reviewing Globe 425

「極端危機」でのリーダーの心得

2019年10月号

 福島原発事故の危機直後、米政府は日本に原発事故対応の専門家グループを送った。その際、日本において米国政府を代表して彼らを指揮したのは、米原子力規制委員会(NRC)の幹部職員、チャールズ・カストーだった。カストーは、IAEA(国際原子力機関)からハンガリーでの原子力事故の対処支援のための国際専門家チームの一員として派遣されたこともあった。
 カストーは日本政府に事故対処の助言をする一方、米政府に事故対応の進言をした。その専門的かつ要を得た働きは、日本側関係者の信頼を勝ち得るとともに、ワシントン中枢の状況判断にも大きな影響を及ぼした。
 危機後、カストーはこの時の経験と教訓を世に伝えるべく、当時、最前線で苦闘した当事者に聞き取りを行い、そこでの知見を基に「極端危機(extreme crisis)」に当たってのリーダーシップに関する著作物を刊行した。
 文中、次のようなくだりがある。
 二〇一一年三月十八日、東京電力本社で、カストーはジョン・ルース大使とともに勝俣恒久会長と面会した。もはや最悪のシナリオが現実化しつつあった。東電が福島第一のサイトから・・・