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社会・文化

「無給医問題」で潰れる大学病院

「奴隷奉公」廃止なら経営危機が続発

2019年10月号

安倍政権の「働き方改革」で、ただでさえ青息吐息の大学病院が機能不全の危機に瀕する。それは時間外労働の上限が定められ、年次有給休暇の取得が義務付けられたためではない。無給医、つまりタダ働きする若手医師の存在が認められなくなるからだ。大学病院を支えてきた若き医師を有給で活用すれば、病院財政は暗転の一途を辿る。これを回避するために人件費を削減すると、今度は有為な人材がごそっと抜ける二律背反である。若い医師が去ると、患者と医師の需給バランスが著しく崩れて治療のニーズを満たせない地域が、大規模な大学病院の多い関西から波及していく。無給医の撲滅は急務だが、同時に地域の実情にきめ細かく応じた柔軟性を持たせなければ、働き方改革のしわ寄せを患者だけが負う反動を招く。
 無給医は収入を犠牲にしても、最新の情報を吸収し、自らの技量を高めることに重きを置く。平日は大学病院でタダ働きをして、生活費は当直などのアルバイトで稼いできた。こんな滅茶苦茶が通用しているのは医学部だけ。過去には学生や若手医師と大学が衝突したこともあった。一九六九年一月の東京大学安田講堂事件も医学部での「インターン闘争」がきっかけ・・・