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連載

新・不養生のすすめ 第30話

認知症の早期診断は是か非か
大西 睦子

2019年9月号

 最近、何度か日本人の医療関係者に頼まれて、ボストン界隈の認知症患者の介護施設を案内した。高級な施設から、市が支援する施設(月額約三千〜一万三千ドル)まで、ピンからキリまで紹介した。ある人は、「価格の割に狭いところに閉じ込められてかわいそう。日本の施設の方がもっと自由がある」とつぶやいた。米国では、認知症患者の安全と管理が何より重要だ。患者がフラフラと外に出て行って迷子にならないように、認知症ユニットは厳重に鍵をかけられ、庭には大きな塀があり、患者は厳しく監視されている。キッチンはガスが使えず、包丁すら置けない。多くのベビーブーマー世代の米国人は、介護施設にいる親の状況を確認しつつ、自分の将来の準備も始めている。
 準備と言えば、まず現実的にどうやって介護施設の費用を支払うかという問題がある。認知症の患者は、がんや心臓病などの病気と比べて、薬や検査ではなく、誰かに一年中二十四時間のケアをしてもらうための費用が桁違いに高い。マウントサイナイ医科大学のエイミー・ケリー博士らによると、米国では五年間で、認知症のケアにかかる平均的な費用は二十八万七千ドル(約三千万円)だ。一方、心臓病・・・