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連載

皇室の風 第133話

キンドレッドとリネージ
岩井 克己

2019年9月号

宮内庁書陵部編修課で一九五〇(昭和二十五)年から三十年以上にわたり研究職一筋に務めた橋本義彦元編修課長は平安史が専門だった。正倉院事務所長を最後に昭和六十三年に退職したが、その後も見識を頼って何度か意見を聴いたことがある。皇室制度調査室長も八年間務めただけに皇室の歴史全般に詳しかったからだ。
 著書の『平安の宮廷と貴族』は今も折にふれて読み返している。要を得て解りやすくバランスもとれており、研究の厚みと懐の深さを感じさせられる。
 その同書冒頭の皇統史概論「皇統の歴史」を、橋本は平安時代に渡宋した日本人僧侶たちが中国皇帝に謁見した時の記録から書き起こしている。
 平安後期、比叡山の僧侶成尋は、六十歳を過ぎてから志を立て、第七十一代後三条天皇の延久四(一〇七二)年、宋に渡った。その旅行記『参天台五台山記』によると、北宋六代神宗皇帝と次のような問答を交わしたという。
 一に問う。本国の王はなんぞ呼ぶ。
 答う。或いは皇帝と称し、或いは聖主と号す。
 一に問う。百姓の号有りや。
 答う。百姓号有り。藤原・源・平・橘等を以っ・・・