皇室の風 第132話
「ちょっと待ってもらえませんか」
岩井 克己
2019年8月号
漂流時代に入った象徴天皇制という視点の重要性は、いくら強調しても足りないと思う。
象徴天皇像は昭和モデル四十年余、平成モデル三十年の積み重ねという厚みを得た。この二代の歩みの原点は敗戦と日本国憲法だったし、国民の側も悲惨な犠牲の上に国民主権、平和主義の理念を得た。だから「新時代令和」が呼号されようとも、表層的な元号更新の底に「戦後」という紀年は岩盤のように続くと言うべきだろう。
時代の閉塞感が強まるなか、何となく改元に浮かれる世相の裏で、戦後定着してきた皇室と国民との節度ある距離感と「信頼と敬愛」の蓄積に、そして社会全般に通底してきた理想主義的土壌に、次第に「劣化」「液状化」が兆しつつあるとの危惧をぬぐえない。
思えば、昭和の「作法」、平成の「作法」というべき皇室の品位と歴史に対する謙虚な姿勢、伝統的文化の継承のあり方も問い直される時代なのである。
明治以来の近代天皇の理念や儀礼体系の制度疲労に対して、平成の天皇の側から改革が提起された面もある。生前の譲位、葬儀の簡素化、憲法の政教分離原則の再確認……。
・・・
象徴天皇像は昭和モデル四十年余、平成モデル三十年の積み重ねという厚みを得た。この二代の歩みの原点は敗戦と日本国憲法だったし、国民の側も悲惨な犠牲の上に国民主権、平和主義の理念を得た。だから「新時代令和」が呼号されようとも、表層的な元号更新の底に「戦後」という紀年は岩盤のように続くと言うべきだろう。
時代の閉塞感が強まるなか、何となく改元に浮かれる世相の裏で、戦後定着してきた皇室と国民との節度ある距離感と「信頼と敬愛」の蓄積に、そして社会全般に通底してきた理想主義的土壌に、次第に「劣化」「液状化」が兆しつつあるとの危惧をぬぐえない。
思えば、昭和の「作法」、平成の「作法」というべき皇室の品位と歴史に対する謙虚な姿勢、伝統的文化の継承のあり方も問い直される時代なのである。
明治以来の近代天皇の理念や儀礼体系の制度疲労に対して、平成の天皇の側から改革が提起された面もある。生前の譲位、葬儀の簡素化、憲法の政教分離原則の再確認……。
・・・