三万人のための情報誌 選択出版

書店では手に入らない、月刊総合情報誌会員だけが読める月間総合情報誌

連載

美の艶話 第43話

「激しい法悦」への憧憬
齊藤 貴子

2019年7月号

作者不詳《タウンリーの壺》

大英博物館所蔵


壺は古今東西、どの時代、どの社会にも存在してきた。だから、およそミュージアムと名の付く場所で壺を置いていないところはないし、今わたしたちが見ているのと同じ壺を、百年、二百年前の人間も同じように見ていたという状況はザラに存在する。
 一七五九年開館の世界最大級の博物館、ロンドンの大英博物館のような場所であればなおのこと。同じひとつの古代の壺が、数世紀もの長きにわたって人びとの目を楽しませ、それぞれに物思わせるという限りなく「永遠」に近い現象は、展示面積五万六千六百平方メートルの広さに九十四の展示室を誇る館内のそこかしこで生じてきた。
 正面入り口から一番遠い、館内の僻地(!)ともいうべき北側三階のジャパン・ギャラリーで孤高を持する、世界最古の縄文土器然り。あるいは、二階北階段近くの第七十三室にまとめて置かれている古代ギリシャの二つ把手の陶器壺「アンフォラ」や、ワインを水で割って飲む習慣のあったギリシャ人が日々用いていた大きな鐘形の壺「クラテル」然り・・・