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連載

皇室の風 第131話

ボーアとキルケゴール
岩井 克己

2019年7月号

ワイツゼッカー独大統領に、日本の皇后から紹介してもらうという栄に浴したことがある。
 といっても、ほんの一瞬。一九九三(平成五)年九月の天皇・皇后訪独取材で、大統領主催晩さん会の大勢の招待客の一人としてだった。
 海外同行取材で記者が公式晩さん会に出席できることは滅多にないが、ドイツ政府が随行記者団代表二人を招待してくれたのである。
 壮麗なアウグストゥスブルク宮殿の晩さん会場入り口では、賓客を一人ひとり出迎えている天皇・皇后と大統領夫妻の前に順次進んであいさつせねばならない。
 東京から持参したタキシードは宮内庁式部職からの借り物。自分の結婚式以来の正装に緊張した面持ちの記者らは、借りてきた猫のような姿だったはずだ。すると、それに気づいた美智子皇后(上皇后)が、さっと明るく微笑(苦笑?)して、隣に立つ大統領に「アワ・ジャーナリスツ」と紹介してくれたのである。二言三言、つけ加えた英語は小声で聞き取れなかったが、宮内庁に常駐し、いつもついて回っている記者であることを説明してくれたのかどうか。やや緊張気味だった大統領も急に相好を崩して握手してくれた。・・・