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連載

現代史の言霊 第15話

七月の爆発  1979年(仏「反ナチ活動家」爆殺未遂)
伊熊 幹雄

2019年7月号

一九七九年
《今もユダヤ人に安全な場所はどこにもない》

セルジュ・クラルスフェルト
(ナチ・ハンター)


 四十年前の一九七九年七月九日、フランスの首都パリの住宅街に轟音が響き、乗用車が爆破された。
 所有者はセルジュとベアテのクラルスフェルト夫妻。夫人は、ナチス党員から西ドイツ首相になったクルト・キージンガーを、公道で平手打ちにしたことがある。著名な「ナチ・ハンター」だった。
 夫妻は車に乗っておらず、難を逃れた。だが、反ナチ活動家が狙われたことと同時に、衝撃的だったのは、「オデッサ(ODESSA)」を名乗る者が犯行声明を出したことだ。ドイツ語の「元ナチス親衛隊隊員機関」の略語である。
 英作家フレデリック・フォーサイスの小説「オデッサ・ファイル」(原著一九七二年刊)と同名の映画(七四年公開)で、一挙に名前が知れ渡った。当時の西欧各国は折から、「反ナチ・反ファシズム」で学生運動・極左活動が広まっていた。ナチス残党のテロ活動に大きな関心が集まった。
「・・・