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連載

現代史の言霊 第13話

五月の登頂  1979年(サッチャー首相誕生)
伊熊 幹雄

2019年5月号

一九七九年
《進取の気性を持った、勤勉な倹約家が成功する社会を作る》

マーガレット・サッチャー(元英首相)

 ロンドンから北に向かって車で三時間ほど。グランサム市は何の変哲もない、地方の小都市だ。
「英国で最も退屈な町」という形容があるのも、人口四万人あまりの同市が、たった一つ、強烈な磁力を持っているからだ。英国史上最初の女性首相、マーガレット・サッチャーが一九二五年十月十三日、ここで生まれたのである。
 生家の二階の赤レンガ壁に「誕生の地」という標識がなければ、容易に通り過ぎるほど家は小さい。
 彼女の父親アルフレッド・ロバーツは、一階で雑貨店を営み、家族は二階で暮らした。後年、マーガレットが「私の考え方は、十七~十八歳になるまでに形成された」と語ったので、ここが「サッチャリズム生誕の地」でもある。
小さな町の家族商店が原点
 もちろん、学んだのは「規制緩和」や「民営化」の理論ではない。「町の雑貨屋」は現在のコンビニエンス・ストアのようなもので、住民は夜間だろ・・・