川崎重工が秘す「P1哨戒機」醜聞
「欠陥機」納品で税金ぼったくり
2019年2月号公開
韓国海軍の駆逐艦が能登半島沖の日本のEEZ(排他的経済水域)の上空で、海上自衛隊のP1哨戒機に火器管制レーダーを照射した問題は、韓国政府の見え透いた反論でいまだに収束の気配すら見えない。これは川崎重工業が防衛省技術研究本部と開発し、製造している純国産機。実は、あの事件でロックオンされたP1は、一般的にほとんど知られていない瑕疵を抱えている。その秘事は「稼働率の異常な低さ」(防衛省筋)で、今のままでは日本周辺海域の警戒監視活動に大きな穴が開きかねない。納品すれども飛べないポンコツでは税金ばかりを吸い上げ、国防のお荷物と化す。
P1哨戒機は、洋上で潜水艦や水上艦の動向を探知する固定翼機で、熱源探知装置やレーダー、音響探索システムを駆使して相手を見つけ、短魚雷などで攻撃もできる。一九八一年に導入したP3C約百機の老朽化に伴い、その後継機として二〇〇〇年に開発が決定した。川崎重工業が主担当企業となり、量産初号機を一三年三月に納入し、現在は厚木航空基地(神奈川県)に約二十機が配備されている。開発総額は三千五百億円とされ、まとめ買いによる一機の単価は約百七十五億円。昨年末に閣議決定した中期防衛力整備計画も十二機の導入を明記し、将来的にP3Cと全て入れ替えて七十機を導入する見通しだ。
川崎重工はホームページで「我が国の広大な周辺海域の長時間の哨戒任務を遂行するために、現用機を上回る速度、航続距離、搭載量が最新技術の運用により実現されています」と喧伝するが、謳い文句と実態の溝はあまりに深い。
ほとんど飛べない「張りぼて」
「P1はレーダー照射事件の報道で散々報じられているけど、この哨戒機はほとんど飛んでいないと言っても過言ではないのですよ」。自衛隊OBはテレビのニュースを観ながら問わず語りに漏らした。その解説によれば、約二十機のうち、常時飛行できるのは二機ほど。つまり、稼働率は一〇%という計算になる。別の空自関係者によれば、航空機全体の稼働率は通常、訓練飛行も含めて六〇~七〇%で、残りは修理や点検。「その程度の稼働率がないと、どんな任務であれ、運用に支障を来す」と言い切る。
それでも洋上の哨戒ができているのは、老朽化しているP3Cがまだ使えるからで、これからの順次入れ替えをにらめば、P1の稼働率を高めていかなければならない。さもなければ、尖閣諸島など南西諸島の防衛も、日本周辺海域の警戒監視も画餅と化す。
もともとP1は導入の前後から、いわく付きの代物。一一年度中に初期配備の予定だったが、試験中に機体に数カ所のひび割れが発覚して延期になった。さらに、配備から二カ月後の一三年五月には、速度超過警報装置の作動を確認した後に急減速を行う飛行試験中に四機全てのエンジンが停止する異常事態が発生する。
さすがに、防衛省は事実関係の公表を余儀なくされ、この年九月には原因究明の結果を公表。「量産化にあたりエンジンの燃料噴射弁の肉厚を増加したことが原因となって、急激な機動を行なった際、エンジンの燃焼が一時的に不安定となったために発生した」として「急激な機動を行った場合においてもエンジンの燃焼が不安定になることがないよう、エンジン制御ソフトウェアを改修する」と発表した。だが、前出OBは「その後もエンジン系統を中心にトラブルが相次いでいる」と明かす。
一七年六月、パリ国際航空宇宙博覧会(パリ・エアーショー)でも重大な失態を演じた。主要メディアは報じなかったが、この時に日本は二機のP1を展示する計画だった。ところが、海自がソマリア沖の海賊対策で活動拠点とするジブチに立ち寄った際、一機の機体でトラブルが発覚する。エアーショーの期間は一週間。交換部品の到着を待てばショーに間に合わなくなり、結局は一機だけがフランスへ向かい参加する顛末に。
内情を知る自衛隊幹部は「二機を飛ばしたのが不幸中の幸い。一機だけの参加を予定して、それが飛べなくなったら世界の笑いものだった」と振り返る。だが、二機のうち一機しか展示されなかったのは、ショー関係者では公知の事実。日本の航空機製造の技術を宣伝する絶好の機会が逆に、信頼性を揺るがせる皮肉な結果になったことは疑いの余地もない。
同盟強化や国際協力にも逆行
それにしても、かくもP1が使い物にならない訳は奈辺にあるのか。関係者の間では「国産にこだわりすぎた反動だ」との声が大勢だ。P1は川崎重工を主担当企業としながら、IHIや三菱重工業なども参画して「オールジャパン」で取り組んだ。そこには、国産開発を断念せざるを得なかった意趣返しも込められている。自衛隊は一九七〇年頃、次期哨戒機を国産化する方針だったが、時の田中角栄首相は米ロッキード社のP3Cを選択し、これがロッキード事件につながったとされる。
以来、川崎重工はじめ日本の国防産業にとって国産の哨戒機は「悲願」だった。ただ、防衛省OBは「その気持ちは理解できるものの、やはり純国産でいきなり完成度の高いものを求めるのはハードルが高すぎた」と顧みる。航空機は孫請けまで入れれば、数千社にも及ぶ会社が関わり、極めて高精度の技術が要求される。
防衛省技官は「トラブルや試験の失敗は成功の源。P1も試行錯誤を重ねて、次第に稼働率が向上してくる」と説明するが、果たしてその期待通りに事が運ぶのか。P1は向こう五年間で想定七十機の半数近くが配備される。現状の稼働率で数だけそろえても、トラブルや修理が続けば、島国日本を守り抜くことなどできない。
米海軍の哨戒機は今、P8が主流で、これはボーイング社の民航機「737」を転用したものだ。既に技術が実証されている航空機をバージョンアップしたので、P1より「稼働率、性能とも優れている」(米軍関係者)。英国やオーストラリア、インドなどでも導入が進む。P1の開発段階では、米軍との相互運用を可能にするとして、P8との共通性を持たせる予定だった。ところが、国産にこだわり、結局は日本独自のシステムを搭載することになった。
国防に精通する国会議員は「日本の存立危機や国際協力など、今後はさまざまな場面で米軍を筆頭に他国軍との連携が死活的に重要になる。それなのに、相互運用できないのでは、たとえP1の稼働率が上がっても、いざという時に有効に使えない」と危惧する。
川崎重工は二〇一五年度の防衛装備品契約額で、三菱重工業を抜いて半世紀ぶりに首位に立った。P1の開発、製造が貢献した結果だ。しかもP1は、それまでの長期契約の上限を五年から十年に延長した特例適用の第一弾。それでも国防に資すれば、誰も文句は言うまいが、いま人知れず起きている秘事は正反対である。血税の垂れ流しをいつまで続けるのか。
P1哨戒機は、洋上で潜水艦や水上艦の動向を探知する固定翼機で、熱源探知装置やレーダー、音響探索システムを駆使して相手を見つけ、短魚雷などで攻撃もできる。一九八一年に導入したP3C約百機の老朽化に伴い、その後継機として二〇〇〇年に開発が決定した。川崎重工業が主担当企業となり、量産初号機を一三年三月に納入し、現在は厚木航空基地(神奈川県)に約二十機が配備されている。開発総額は三千五百億円とされ、まとめ買いによる一機の単価は約百七十五億円。昨年末に閣議決定した中期防衛力整備計画も十二機の導入を明記し、将来的にP3Cと全て入れ替えて七十機を導入する見通しだ。
川崎重工はホームページで「我が国の広大な周辺海域の長時間の哨戒任務を遂行するために、現用機を上回る速度、航続距離、搭載量が最新技術の運用により実現されています」と喧伝するが、謳い文句と実態の溝はあまりに深い。
ほとんど飛べない「張りぼて」
「P1はレーダー照射事件の報道で散々報じられているけど、この哨戒機はほとんど飛んでいないと言っても過言ではないのですよ」。自衛隊OBはテレビのニュースを観ながら問わず語りに漏らした。その解説によれば、約二十機のうち、常時飛行できるのは二機ほど。つまり、稼働率は一〇%という計算になる。別の空自関係者によれば、航空機全体の稼働率は通常、訓練飛行も含めて六〇~七〇%で、残りは修理や点検。「その程度の稼働率がないと、どんな任務であれ、運用に支障を来す」と言い切る。
それでも洋上の哨戒ができているのは、老朽化しているP3Cがまだ使えるからで、これからの順次入れ替えをにらめば、P1の稼働率を高めていかなければならない。さもなければ、尖閣諸島など南西諸島の防衛も、日本周辺海域の警戒監視も画餅と化す。
もともとP1は導入の前後から、いわく付きの代物。一一年度中に初期配備の予定だったが、試験中に機体に数カ所のひび割れが発覚して延期になった。さらに、配備から二カ月後の一三年五月には、速度超過警報装置の作動を確認した後に急減速を行う飛行試験中に四機全てのエンジンが停止する異常事態が発生する。
さすがに、防衛省は事実関係の公表を余儀なくされ、この年九月には原因究明の結果を公表。「量産化にあたりエンジンの燃料噴射弁の肉厚を増加したことが原因となって、急激な機動を行なった際、エンジンの燃焼が一時的に不安定となったために発生した」として「急激な機動を行った場合においてもエンジンの燃焼が不安定になることがないよう、エンジン制御ソフトウェアを改修する」と発表した。だが、前出OBは「その後もエンジン系統を中心にトラブルが相次いでいる」と明かす。
一七年六月、パリ国際航空宇宙博覧会(パリ・エアーショー)でも重大な失態を演じた。主要メディアは報じなかったが、この時に日本は二機のP1を展示する計画だった。ところが、海自がソマリア沖の海賊対策で活動拠点とするジブチに立ち寄った際、一機の機体でトラブルが発覚する。エアーショーの期間は一週間。交換部品の到着を待てばショーに間に合わなくなり、結局は一機だけがフランスへ向かい参加する顛末に。
内情を知る自衛隊幹部は「二機を飛ばしたのが不幸中の幸い。一機だけの参加を予定して、それが飛べなくなったら世界の笑いものだった」と振り返る。だが、二機のうち一機しか展示されなかったのは、ショー関係者では公知の事実。日本の航空機製造の技術を宣伝する絶好の機会が逆に、信頼性を揺るがせる皮肉な結果になったことは疑いの余地もない。
同盟強化や国際協力にも逆行
それにしても、かくもP1が使い物にならない訳は奈辺にあるのか。関係者の間では「国産にこだわりすぎた反動だ」との声が大勢だ。P1は川崎重工を主担当企業としながら、IHIや三菱重工業なども参画して「オールジャパン」で取り組んだ。そこには、国産開発を断念せざるを得なかった意趣返しも込められている。自衛隊は一九七〇年頃、次期哨戒機を国産化する方針だったが、時の田中角栄首相は米ロッキード社のP3Cを選択し、これがロッキード事件につながったとされる。
以来、川崎重工はじめ日本の国防産業にとって国産の哨戒機は「悲願」だった。ただ、防衛省OBは「その気持ちは理解できるものの、やはり純国産でいきなり完成度の高いものを求めるのはハードルが高すぎた」と顧みる。航空機は孫請けまで入れれば、数千社にも及ぶ会社が関わり、極めて高精度の技術が要求される。
防衛省技官は「トラブルや試験の失敗は成功の源。P1も試行錯誤を重ねて、次第に稼働率が向上してくる」と説明するが、果たしてその期待通りに事が運ぶのか。P1は向こう五年間で想定七十機の半数近くが配備される。現状の稼働率で数だけそろえても、トラブルや修理が続けば、島国日本を守り抜くことなどできない。
米海軍の哨戒機は今、P8が主流で、これはボーイング社の民航機「737」を転用したものだ。既に技術が実証されている航空機をバージョンアップしたので、P1より「稼働率、性能とも優れている」(米軍関係者)。英国やオーストラリア、インドなどでも導入が進む。P1の開発段階では、米軍との相互運用を可能にするとして、P8との共通性を持たせる予定だった。ところが、国産にこだわり、結局は日本独自のシステムを搭載することになった。
国防に精通する国会議員は「日本の存立危機や国際協力など、今後はさまざまな場面で米軍を筆頭に他国軍との連携が死活的に重要になる。それなのに、相互運用できないのでは、たとえP1の稼働率が上がっても、いざという時に有効に使えない」と危惧する。
川崎重工は二〇一五年度の防衛装備品契約額で、三菱重工業を抜いて半世紀ぶりに首位に立った。P1の開発、製造が貢献した結果だ。しかもP1は、それまでの長期契約の上限を五年から十年に延長した特例適用の第一弾。それでも国防に資すれば、誰も文句は言うまいが、いま人知れず起きている秘事は正反対である。血税の垂れ流しをいつまで続けるのか。
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