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連載

をんな千一夜 第22話

婦徳を示す使命を負って
石井 妙子

2019年1月号

《昭憲皇太后(美子皇后)》

皇后、とは不思議な存在だ。嫁ぐことによってのみ、その絶対的な立場を手にする。だからこそ、あるべき姿を模索して、より煩悶するのかもしれない。
 近代の天皇制がスタートして、約百五十年。現在のような「皇后」が誕生するのは明治以降で、礎を築いたのは明治天皇の正室、美子皇后である。高い知性の持ち主であった、といわれる。
 子どものように小柄で華奢、日本女性にはめずらしく鼻筋がとおり、少々、鷲鼻であった。立ち居振る舞いは優美そのもの。だが、明治天皇が油の臭いを好まず、船酔いしがちで軍艦に乗るのを嫌ったのとは対照的に、荒波でも平然と甲板に出て大海原を見つめ、周囲を圧倒した逸話を残すほど、男勝りな一面もあった。
 公家のなかでも最も格式高い五摂家のひとつ、一条家に美子が生まれたのは嘉永二(一八四九)年。父は一条忠香、母は新田義貞の血を引く一条家出入りの典医の娘、「花浦の方」。幼名は勝子だったが、富貴姫、壽栄姫を経て、入内にあたり、美子の名を与えられた。
 江戸時代を通じて天皇家・・・