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連載

美の艶話 第37話

究極の求愛行為
齊藤 貴子

2019年1月号

ジャン・ロレンツォ・ベルニーニ作《ペルセポネーの掠奪》
ボルゲーゼ美術館所蔵


思う人には思われず、思わぬ人には思われて、とかくこの世はままならない。
 手短なところで手を打てばいいものを、よりによって住む世界の違う人間、簡単には手に入らぬ相手にどんどん惹かれていくから、本当に始末に困る。あいつだけはやめておけと、頭ではわかっているというのに……。
 どこの誰の話かというと、実は人ではなく遠い昔の神様の話。地上に暮らす豊饒の女神の娘ペルセポネーに勝手に懸想し、野原で花を摘んでいた彼女を力ずくで地底へとさらってしまった冥界の神、ハデスのことである。
 好きだから奪う。ハデスの発想と行動は、恋する男のそれとして実にシンプルでドラマティック。有無を言わさぬその大胆不敵な振る舞いは、なるほど現実世界に置き換えればたちまち犯罪めくが、神話という物語世界にあっては、むしろ大変わかりやすい究極の求愛行為。それ以上でもそれ以下でもない。
 その究極の求愛を、彫刻という芸術・・・