三万人のための情報誌 選択出版

書店では手に入らない、月刊総合情報誌会員だけが読める月間総合情報誌

連載

現代史の言霊 第7話

十一月の死去 1975年(フランコの大罪)
伊熊 幹雄

2018年11月号

《古傷を開いてはいけない》
マリアノ・ラホイ・ブレイ(スペイン前首相)

 今から十年ほど前のことだ。
 スペイン・バルセロナ近郊に住む電気技師、フアン=ルイス・モレノは、死の床にあった父親から衝撃の告白を聞いた。
「お前は私の本当の子ではない。ある神父からお前を買ったのだ」
 一九七〇年代の初頭、十万ペセタを支払ったという。当時のスペインで、アパート一戸がまるまる買える大金だった。幼馴染みの親友アントニオ・バロソも同じように買われたという。
 二人は互いの母親とのDNA鑑定を密かに行い、同じ結果を得た。「あなたが今の母親から生まれた可能性はゼロ」だった。
 二人はやがて、自分たちの出生記録にたどりつき、ほぼ四十年間、全くの別人として育ったことを確認した。同様の体験を持つ人たちを集め、全国組織を作った。
三十万人「赤ん坊売買」の闇
 現在では、モレノと同様に、母親から盗まれ、売られた赤ん坊はざっと三十万人いると推計されている。ところが、ほんの十年前までこ・・・