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連載

皇室の風 第122話

「内の民間」と「外の皇室」
岩井 克己

2018年10月号

私の天皇像とは、天皇制を遂行できる天皇である。もしそれができない天皇ならば退位してもらいたい」
 大阪大学名誉教授(東洋史)加地伸行の発言である。現天皇の退位をめぐる近年の議論で出たものではない。平成五年の『諸君!』十二月号。昭和から代替わりし本格的に船出して皇太子妃も決まったばかりの、平成の皇室に対する守旧派からの激しいバッシングが皇后に集中し、誕生日の十月二十日朝に倒れ言葉を失うという状況下での寄稿だ。その「私の天皇像」を加地は次のように述べていた。
「皇太子妃の役目は、外交でもなければ新風を吹きこむことでもない。ただ一つ―子を生み皇統を絶やさぬことである。皇后の役目は、ダンスでもなければ災害地見舞でもない」
「皇室は国民の人気などという浮わついたものを求める必要はない。国民の前に姿を現す必要など毛頭ない。宮中奥深く、天皇一族が祭礼を中心として静かに生きること、そして天皇家の生命が存在し続け日本の歴史を象徴的に表現すること、そこに天皇制の大いなる意義がある」
 むき出しの極言だが、守旧派の正直な本音だったろう。
 長年にわたり家族問・・・