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社会・文化

滅びゆく「大学出版会」

日本「知の衰退」の象徴

2018年8月号

 学者、研究者が自らの研究成果を世に問う学術書を出す機能を担う大学出版会の衰退が加速している。東京大学出版会、慶應義塾大学出版会などトップ大学の出版会すら経営は実質赤字。経営破綻し、民間の出版社に業務を丸投げした名門大学の出版会もある。学術的価値よりも「売れる本」づくりに走る出版会も多く、肝心の学術書は科研費や研究者の自己負担でようやく日の目をみる、といった状況だ。日本語で書かれた学術書は世界に市場を持たないという事情はあるにせよ、大学出版会の惨状は日本の「知の衰退」そのものを映し出しているようだ。
『ドーナツを穴だけ残して食べる方法』。ギャグまがいの風変わりなタイトルの本が二〇一四年に出版され、二万部近くを売り上げた。出版したのは大阪大学出版会。学術書では関西を代表する名門だが、思い切ったネーミングで話題となった。内容は「矛盾に満ちた課題に阪大の十三人の教員が挑む」という学際的な知の挑戦で、学生が編集者として参加する斬新な手法も採用した。
 一度ボツになった企画を拾い上げ、書名に対する学内の反発を乗り越えて発売にこぎ着けたのは、「何かしなければ大学出版会が消滅する・・・