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連載

現代史の言霊 第3話

七月の埋葬 1998年( ロシア・ニコライ2世)
伊熊 幹雄

2018年7月号

《彼らを赦したまえ》
ニコライ二世(ロマノフ王朝第十四代皇帝)

 夜陰に乱射された銃弾が、華奢な少女たちの胴体に、ことごとく跳ね返される。超常現象のような事態が百年前の一九一八年七月十七日未明、ロシア西シベリア地方エカテリンブルク市にある民家で起こった。迷信深いロシアの兵隊たちは、跳ね弾が自分たちに飛んでくるのを体験し、恐慌に陥った。
 彼らが撃ったのは、革命で倒された元皇帝ニコライ二世、元皇妃アレクサンドラとその四人の娘、一人の息子。さらに四人の従者を合わせ、計十一人だった。
 跳ね弾には、からくりがあった。オリガ、タチヤナ、マリア、アナスタシアの四人は、多数のダイヤモンドを丁寧に縫い込んだコルセットを着ていた。銃弾はこれに跳ね返されたのだった。
 射殺部隊の指揮を執ったヤコフ・ユーロフスキーは、射撃を止め、即死しなかった三人の元皇女、元皇太子アレクセイらを銃剣で殺害するよう命じた。一家と従者たちの頭部は無残に砕かれた。十一の遺体はトラックに載せられ、市郊外の森林地帯に埋められた。
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