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連載

《世界の キーパーソン》モハメド・サラー(エジプト代表サッカー選手)

「圧政」の母国を熱狂させるヒーロー

2018年6月号


 今年三月に行われたエジプト大統領選は、現職のアブデルファタハ・シシが多少とも「有力」と見られる候補をすべてつぶしたため、立候補者は二人だけだった。現職は九七%の得票率で圧勝した。
 誰が対立候補だったかはもはや覚えておく必要もないが、「次点」は覚えておくべきだ。イングランドのサッカー「プレミアリーグ」の強豪「リバプール」所属の、エジプト人エースストライカー、モハメド・サラーが恐らく百万票以上を集めて、公式候補の六十五万票を大きく上回ったのである。
 選管発表では、「無効または白票」が百七十万票を超えた。その大半に、立候補もしていないサラーの名前が書かれたと見られる。投票率は四一%で、圧倒的多数のエジプト人が投票自体を拒否した。七年前の「アラブの春」で、ムバラク政権を倒したエジプト人は今、行き場のない情熱をプレミアリーグのテレビ観戦に注いでいる。
 エジプトでは二十歳以下の代表で、早くから注目され、二〇一二年にスイスのバーゼルに移って以来、ヨーロッパで活躍している。それでも、これだけの注目と人気を集めたのは、昨年六月、リバプールに移籍して以後の・・・