Jパワー「環境破壊企業」の強欲
「迷惑施設」石炭火力でぼろ儲け
2018年6月号公開
近隣住民はさぞかし胸をなで下ろしたことだろう。電源開発(Jパワー)が計画を進めていた高砂火力発電所の建て替えが、四月二十七日をもって白紙撤回された。電発によれば、電力の買い手である関西電力が、自社需要の落ち込みを理由に建て替えに難色を示したという。だが、関電にしてみれば、自社需要がどうこう以前に「厄介な電源を引き取りたくない」というのが本音だったに違いない。計画されていたのが、二酸化炭素を垂れ流す石炭火力発電所の建て替えだったからだ。
電発が、収益を石炭火力発電に依存しきっているのは周知の通りだ。高砂火力発電所の建て替えを断念したその日も、電発の渡部肇史社長は、進行中のほかの石炭火力発電プロジェクトに並々ならぬ意欲を示した。電発が今、最も力を入れているのが、山口県宇部市における石炭火力発電所の新設だ。大阪ガスなどと共同で、低炭素の時代にはふさわしくない百二十万キロワットの大型石炭火力発電所をつくろうとしている。
石炭火力発電所新設の動きは海外にも及ぶ。インドネシアでは、二百万キロワットの大型石炭火力発電所を新設することになった。地元住民から反発を受け、たびたびプロジェクトが延期されたが、最終的には政府を抱き込み、国家ぐるみでの迷惑施設着工へと導くことに成功した。
国内外で二酸化炭素を垂れ流し
電発が強度の石炭依存から抜け出せないのは、ひとえに石炭火力発電が儲かるからだ。日本では電力小売り全面自由化に突入したが、同時に、卸規制が撤廃された。卸規制は電発に長期・安定的な卸販売を保証するものだったが、その半面、原価主義に基づいた卸料金設定を要求するという制約があった。卸規制の撤廃は、電発からすると、「買ってもらう保証がなくなった代わりに、好きな値段で売れるようになった」(電力幹部)ことを意味する。従来は大手電力会社に安値でたたかれていたが、今はより高く買ってくれる会社に引き取ってもらうことも可能ということだ。
石炭火力発電所の電気は、一キロワットアワー当たり十二円程度と安い。供給力が貧弱な新電力には喉から手が出るほど欲しい電源であり、「安値を要求し続けるなら、ほかに売るぞと駆け引きできる環境にある」(同)。それが奏功し、電発は利益を乗せた価格で電力を卸販売できるようになった。結果は、業績にも如実に反映されている。
電発の二〇一七年度連結決算は、売上高が対前年度で一五%増の八千五百六十二億円、純利益が六五%増の六百八十四億円で、売上高と純利益がともに過去最高となった。過去最高の業績を支えたのは、国内販売電力量の八五%を占める石炭火力発電事業だ。火力発電の販売電力量が対前年度で六・五%しか増えていないにもかかわらず、発電事業の売上高が一八・六%も増えているのは、電発の石炭火力事業が高単価に転換したことの証左にほかならない。電力全面自由化における小売り競争で大手電力会社が疲弊するのとは対照的に、電発はまさに全面自由化を謳歌しているといえるだろう。
とはいえ、電発の先行きが明るいわけではない。一つは海外の動向だ。パリ協定の内容からもわかる通り、日本と違って、世界は石炭火力発電のデメリットをよく理解している。それは、金融機関による融資の禁止と、投資家による回避行動という潮流を生み出した。融資に関しては、欧米の金融機関を中心に、石炭火力発電事業などへの新規融資を相次ぎ中止。日本の金融機関もこの流れを無視するわけにもいかず、電発の大株主の一社である三井住友フィナンシャルグループも、石炭火力発電事業への融資厳格化を言明せざるを得なくなった。
ESG(環境・社会・企業統治)投資の世界的な隆盛も、電発にとっては打撃だ。日本の企業はまだESGへの感度が鈍いが、世界では運用総額が二千五百兆円を超えるといわれる。電発の株主は三割が海外投資家であり、この流れと無縁ではいられない。ESG投資の盛り上がりと反比例するように電発の株価は低迷を続けており、一五年二月には四千六百九十円をつけた株価も現在は三千円台をうろつく有り様だ。
電発はこれまで中期経営計画で、低炭素の取り組みをアピールしてきた。風力発電やバイオマス発電など再生可能エネルギーの導入拡大も盛んに喧伝したが、大きな効き目はないようだ。そもそも電発は年間に五千五百万トンもの二酸化炭素を排出している企業だ。このうち一千万トンは海外で垂れ流しているのだから、受け入れられるわけもない。一七年度連結決算の発表時には、五円の増配を打ち出したが、これは「海外投資家をつなぎ止めるためにこびを売ったのではないか」(電力関係者)との見方がもっぱらだ。
我が世の春は長く続かない
日本国内では、法規制リスクが厳然と存在している。政府は省エネルギー法やエネルギー供給構造高度化法を通じて、石炭火力発電の効率化や依存度低減を追求。省エネ法では発電効率の向上が求められているほか、高度化法では小売電気事業者に対して非化石電源比率を四四%以上に高めるよう要求している。高効率化を実現するためにイニシャル・ランニングコストがかさみ、非化石比率を気にする小売事業者からは敬遠される―そのような電源に石炭火力発電は成り下がりつつあるのだ。
ちなみに省エネ法の二〇三〇年度の火力発電効率目標値は四四・三%だが、電発は現在四〇・三%。電発は電気事業低炭素社会協議会に参加し、二〇三〇年度に二酸化炭素排出係数を一キロワットアワー当たり〇・三七キログラム以下にすることを目指しているが、電発の排出係数は同〇・七三キログラムと高止まりしている。「温暖化対策では足を引っ張りながら、着々と収益を積んでいる」と、電発に対して眉をひそめる大手電力会社関係者も少なくない。
電発内部では今、大間原子力発電所の重要性があらためて意識されているという。原子力発電は二酸化炭素を排出しないため、「電発の電源全体を低炭素化できる」(前出関係者)というのだ。二酸化炭素排出の大本となっている石炭火力発電は減らさず、それを原発で薄めようとするあたりは、電発の石炭火力依存の強さを物語っているといえるだろう。
だが、石炭火力発電の春などは、長く続かない。現在の日本では、太陽光発電が続々と設置されており、九州などでは太陽光発電を優先するために石炭火力発電を止める事態に至っている。この傾向が続けば、やがて、石炭火力発電のコスト競争力も失われるだろう。その段になってようやく石炭火力依存から目を覚ましたところで、垂れ流した二酸化炭素を回収するすべはない。
電発が、収益を石炭火力発電に依存しきっているのは周知の通りだ。高砂火力発電所の建て替えを断念したその日も、電発の渡部肇史社長は、進行中のほかの石炭火力発電プロジェクトに並々ならぬ意欲を示した。電発が今、最も力を入れているのが、山口県宇部市における石炭火力発電所の新設だ。大阪ガスなどと共同で、低炭素の時代にはふさわしくない百二十万キロワットの大型石炭火力発電所をつくろうとしている。
石炭火力発電所新設の動きは海外にも及ぶ。インドネシアでは、二百万キロワットの大型石炭火力発電所を新設することになった。地元住民から反発を受け、たびたびプロジェクトが延期されたが、最終的には政府を抱き込み、国家ぐるみでの迷惑施設着工へと導くことに成功した。
国内外で二酸化炭素を垂れ流し
電発が強度の石炭依存から抜け出せないのは、ひとえに石炭火力発電が儲かるからだ。日本では電力小売り全面自由化に突入したが、同時に、卸規制が撤廃された。卸規制は電発に長期・安定的な卸販売を保証するものだったが、その半面、原価主義に基づいた卸料金設定を要求するという制約があった。卸規制の撤廃は、電発からすると、「買ってもらう保証がなくなった代わりに、好きな値段で売れるようになった」(電力幹部)ことを意味する。従来は大手電力会社に安値でたたかれていたが、今はより高く買ってくれる会社に引き取ってもらうことも可能ということだ。
石炭火力発電所の電気は、一キロワットアワー当たり十二円程度と安い。供給力が貧弱な新電力には喉から手が出るほど欲しい電源であり、「安値を要求し続けるなら、ほかに売るぞと駆け引きできる環境にある」(同)。それが奏功し、電発は利益を乗せた価格で電力を卸販売できるようになった。結果は、業績にも如実に反映されている。
電発の二〇一七年度連結決算は、売上高が対前年度で一五%増の八千五百六十二億円、純利益が六五%増の六百八十四億円で、売上高と純利益がともに過去最高となった。過去最高の業績を支えたのは、国内販売電力量の八五%を占める石炭火力発電事業だ。火力発電の販売電力量が対前年度で六・五%しか増えていないにもかかわらず、発電事業の売上高が一八・六%も増えているのは、電発の石炭火力事業が高単価に転換したことの証左にほかならない。電力全面自由化における小売り競争で大手電力会社が疲弊するのとは対照的に、電発はまさに全面自由化を謳歌しているといえるだろう。
とはいえ、電発の先行きが明るいわけではない。一つは海外の動向だ。パリ協定の内容からもわかる通り、日本と違って、世界は石炭火力発電のデメリットをよく理解している。それは、金融機関による融資の禁止と、投資家による回避行動という潮流を生み出した。融資に関しては、欧米の金融機関を中心に、石炭火力発電事業などへの新規融資を相次ぎ中止。日本の金融機関もこの流れを無視するわけにもいかず、電発の大株主の一社である三井住友フィナンシャルグループも、石炭火力発電事業への融資厳格化を言明せざるを得なくなった。
ESG(環境・社会・企業統治)投資の世界的な隆盛も、電発にとっては打撃だ。日本の企業はまだESGへの感度が鈍いが、世界では運用総額が二千五百兆円を超えるといわれる。電発の株主は三割が海外投資家であり、この流れと無縁ではいられない。ESG投資の盛り上がりと反比例するように電発の株価は低迷を続けており、一五年二月には四千六百九十円をつけた株価も現在は三千円台をうろつく有り様だ。
電発はこれまで中期経営計画で、低炭素の取り組みをアピールしてきた。風力発電やバイオマス発電など再生可能エネルギーの導入拡大も盛んに喧伝したが、大きな効き目はないようだ。そもそも電発は年間に五千五百万トンもの二酸化炭素を排出している企業だ。このうち一千万トンは海外で垂れ流しているのだから、受け入れられるわけもない。一七年度連結決算の発表時には、五円の増配を打ち出したが、これは「海外投資家をつなぎ止めるためにこびを売ったのではないか」(電力関係者)との見方がもっぱらだ。
我が世の春は長く続かない
日本国内では、法規制リスクが厳然と存在している。政府は省エネルギー法やエネルギー供給構造高度化法を通じて、石炭火力発電の効率化や依存度低減を追求。省エネ法では発電効率の向上が求められているほか、高度化法では小売電気事業者に対して非化石電源比率を四四%以上に高めるよう要求している。高効率化を実現するためにイニシャル・ランニングコストがかさみ、非化石比率を気にする小売事業者からは敬遠される―そのような電源に石炭火力発電は成り下がりつつあるのだ。
ちなみに省エネ法の二〇三〇年度の火力発電効率目標値は四四・三%だが、電発は現在四〇・三%。電発は電気事業低炭素社会協議会に参加し、二〇三〇年度に二酸化炭素排出係数を一キロワットアワー当たり〇・三七キログラム以下にすることを目指しているが、電発の排出係数は同〇・七三キログラムと高止まりしている。「温暖化対策では足を引っ張りながら、着々と収益を積んでいる」と、電発に対して眉をひそめる大手電力会社関係者も少なくない。
電発内部では今、大間原子力発電所の重要性があらためて意識されているという。原子力発電は二酸化炭素を排出しないため、「電発の電源全体を低炭素化できる」(前出関係者)というのだ。二酸化炭素排出の大本となっている石炭火力発電は減らさず、それを原発で薄めようとするあたりは、電発の石炭火力依存の強さを物語っているといえるだろう。
だが、石炭火力発電の春などは、長く続かない。現在の日本では、太陽光発電が続々と設置されており、九州などでは太陽光発電を優先するために石炭火力発電を止める事態に至っている。この傾向が続けば、やがて、石炭火力発電のコスト競争力も失われるだろう。その段になってようやく石炭火力依存から目を覚ましたところで、垂れ流した二酸化炭素を回収するすべはない。
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