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ダライ・ラマ「後継問題」の混沌

チベット支配「完成」へ中国の計略

2018年5月号

「私がポタラ宮に戻れるかどうかは重要なことではない。チベットの文化をいかに守るかが大事だ」
 インドに亡命中のチベット仏教最高指導者、ダライ・ラマ十四世が四月十六日、亡命政府の所在地ダラムサラで信者らと交流した際、こう語ると、「ダライ・ラマはついに帰国を諦めたのか」と信者に衝撃が走った。それまでは「(中国チベット自治区)ラサのポタラ宮でもう一度説法したい」とチベットへ戻る意思を再三にわたり示していたからだ。
 ダライ・ラマは一九五九年、毛沢東率いる当時の共産党政権と対立して、中国国内に数百万人のチベット仏教の信者を残したままインドに渡った。「彼らにもう一度会いたい」。それがダライ・ラマの長年の悲願だった。
 帰国許可を模索する彼は中国当局を過度に刺激する言動を避け、妥協を重ねてきた。多くのチベット人が望む「独立」の言葉を決して口にしない。チベットの将来について聞かれれば、中国当局が受け入れる「高度的自治」と答え続けた。
 二〇一二年、習近平政権の発足後、中国国内で少数民族と宗教への締め付けが強化されたにもかかわらず、ダライ・ラマは公的な場で中国共・・・