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連載

美食文学逍遥16

ロシアに学んだ「フランス食事様式」
福田育弘

2018年4月号

 フランス料理といえば、だれもが複数の前菜に始まり、魚、肉、デザートなどが一品ずつ次々と出てくるコース料理を思い浮かべる。
 軽いものから重いものへ、塩味のものから甘いものへという流れは、たしかに合理的だ。コース料理をいっきに食卓に出されたら、きっと全部食べきれないだろう。
 しかし、フランス人の多くが、伝統の食事様式と信じて疑わない、こうした出し方・食べ方も、実際は歴史のなかで形づくられてきたものだ。フロベールの長編小説『感情教育』には、次のようなレストランでの会食場面がある。
「花と果物を盛った金めっきの飾り台がフランスの古風な様式にしたがって銀の皿が並んだ食卓のまんなかをしめていた。塩漬や香辛料でいっぱいになった前菜の皿がその回りを縁どり、氷で冷やしたバラの香りをつけたワインの入った水差しが距離をおいていくつも立っていた。高さの違う五つのグラスが、使い方のわからない品々、技巧を凝らした多くの食具とともに、各自の皿の前に並んでいた。しかも、最初に出されたものだけでも、シャンパーニュに浸したチョウザメの頭、トカイワインソースのヨーク・ハム、ツグミのグラタ・・・