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連載

美の艶話28

寝取られ女のエロス
佐伯順子

2018年4月号

 近松門左衛門は江戸時代の浄瑠璃作者だが、現代人にも愛され続けている。宇崎竜童によるロック『曽根崎心中』、和田勉演出のテレビドラマ、オペラ、現代演劇など、アレンジの幅も広い。
 多くの“現代版近松”のなかでも、篠田正浩監督による映画『心中天網島』(一九六九年)は、近松の原作に忠実であると同時に、現代性もある出色の例である。
 大坂天満で紙屋を営む治兵衛は、小春という遊女と親しくなり、妻・おさんとの板挟みで苦しみながら、最後は小春との心中を選ぶ。現代風にいえば、既婚男性のいわゆる不倫物語であり、昨今のテレビドラマや映画でも、結婚外恋愛のモチーフは人気があるので、現代の観客にも感情移入しやすいのであろう。
 映画ならではの視覚的演出は、遊女・小春と妻・おさんの対比である。近松と同時代の既婚女性は、眉を剃り、お歯黒をつける習慣があったが、多くの現ドラマや映画では、こうしたメイクは現代風に手直ししている。眉毛のない顔やお歯黒は、現代人には奇異に映ってしまうからである。
 だが、この映画ではあえて当時の慣習に忠実に、おさんをお歯黒、・・・