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連載

Book Reviewing Globe 406

政治算術としての「国民所得」

2018年3月号

 二十一世紀に入って、世界のGDP序列が激しく変動し始めた。二〇一〇年、中国が日本を抜いて世界第二の経済大国となった。四〇年頃、今度は米国を抜いて世界最大の経済大国となるだろう(PPP=購買力平価=基準では、一四年に中国は米国を抜いた)。
 リーマンショック後は、G7に代わってG20が世界経済ガバナンスの司令塔にのし上がってきた。規模はパワーの源泉である。世界経済と世界政治は各国のGDPの規模に大きく左右される。この概念が、政治算術として大きなパワーを発揮することになったのは、一九三〇年代の大不況のときだった。ここで、ロシアからの移民である経済学者、サイモン・クズネッツの果たした役割が大きかった。
 クズネッツたちは、米上院から現時点での米国の経済状況がどうなっているのか、マクロ的なデータを提出してほしいとの要請を受け、研究を始めた。その成果が一九三四年、米上院に提出した『国民所得 1929-1932』である。この中で、彼らは、この四年間に米国の国民所得が五〇%減少していることを明らかにした。建設業にいたっては八〇%減である。また、賃金労働者はサラリーマンに比べより・・・