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連載

本に遇う 連載218

栄誉に合理性はない
河谷史夫

2018年2月号

 日本の新聞はノーベル賞がお好きである。「文学賞村上春樹」で空騒ぎするのが恒例だ。去年またも村上は貰えず、貰ったのは英国人作家カズオ・イシグロだった。するとイシグロが「日系」だからと千年の親戚のごとき扱いをして、経営が斜陽というのに特派員を現地に送って表彰式の模様を知らせてきた新聞があったりする。たしか一昨年はアメリカの歌うたいに虚仮にされたような賞を、かくも有難がるとは怪訝である。
 ノーベル文学賞と言えば、かつて井上靖で騒ぎ、三島由紀夫で騒ぎ、井伏鱒二も騒がれた。井伏は「自分をノーベル賞候補に推す動きがあるが、ノーベル賞を受けるなどということは考えただけで身震いがする」と嫌悪の情をあからさまにした。これを「朋有リ、遠方ヨリ来ル」のごとく喜んだのが畑違いの野田良之であった。
 野田は比較法学者。一九一二年生まれ。府立一中、一高、東京帝大法学部の秀才で、助手、助教授から教授でフランス法講座を持つ。パリ大学教授を併任して日本法を教え、帰朝して「比較法原論」の初代教授。六十歳で定年退官して学習院大学に移り「法哲学」を担当、七十歳で定年退職するや千葉県柏市に引っ込んだ。礼・・・