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連載

皇室の風 114

継承儀礼の過剰感Ⅱ
岩井克己

2018年2月号

「大嘗祭は神嘉殿でやればいいじゃないか」
 昭和天皇の弟で昭和六十二年に死去した高松宮は生前そう言っていたと聞いて意外に思ったことがある。平成の大嘗祭をめぐり「天皇が神になる儀式だ」「憲法の政教分離原則に反する」といった反発が強まっていた時期だ。
 高松宮は神事の厳修など皇室の伝統継承に「うるさい宮さま」と宮内庁職員や掌典職職員らに煙たがられていた。その人が、大嘗宮を建てずとも宮中三殿に隣接した新嘗祭の常設祭場・神嘉殿でかまわぬと大胆な発言をしていたのは驚きだったのである。
 戦前の旧皇室典範は「卽位ノ禮及大嘗祭ハ京都ニ於テ之ヲ行フ」(第十一條)と定めていたが、戦後の典範では「皇位の継承があつたときは、即位の礼を行う」(第二十四条)として大嘗祭は削除された。内閣法制局も「神道儀式である大嘗祭を国家行事(国事行為)として行うのは憲法の政教分離原則から難しい」との見解だった。昭和天皇も「大嘗祭にそなえ内廷費を積み立てなくてよいのか」と心配していたという。
 海部俊樹内閣が「皇室の長い伝統を受け継いだ、皇位継承に伴う一世一度の重要な儀式」として公的性格・・・