三万人のための情報誌 選択出版

書店では手に入らない、月刊総合情報誌会員だけが読める月間総合情報誌

連載

をんな千一夜 第10話

川上貞奴 元祖国際女優の反骨精神
石井 妙子

2018年1月号

 つき合った男たちは、いずれも近代史に名を残している。とはいえ、彼女が男を渡り歩いた、というわけでは決してない。
 日本の女優第一号と言われる川上貞奴は、ひと言でいえば剛毅な女である。明治四年生まれ。生家は江戸の両替商で、本来なら豪商の娘として育つところを、家業が傾き日本橋に近い葭町の芸者置屋に引き取られた。養母となった可免は置屋を営む前は大奥で御殿女中をしていたといわれ、血の繫がらぬ貞を溺愛し、読み書き、芸事を仕込み、理想とする江戸の女らしい強気な、プライドの高い少女へと磨きあげた。
 十二歳になると貞は、「小奴」の名で半玉として座敷に出たが、幼い頃から人に媚びず、独特の風格があって政財界の大物に寵愛された。いずれは葭町を代表する名妓になると、誰もが思ったが、少女自身は花柳界に生きる定めを受け入れつつも、納得しきれないものがあったのだろう。せめてもの反抗か、馬術や柔道といった芸者らしからぬ、荒っぽい趣味に没頭した。
 そんなある日、無謀にも千葉県の成田山まで遠乗りに出て野犬の群れに襲われる。この時、助けてくれたのが慶應義塾の学生で後に「電力王」となる岩崎・・・