《罪深きはこの官僚》鈴木康裕(厚生労働省医務技監)
医療保険不正請求「もみ消し」を主導
2017年12月号公開
医療界の不正を野放しにする厚生労働省―。霞が関の行動論理からはかけ離れた所業だ。国土交通省は日産自動車の不正検査に不快感を示し、経済産業省は神戸製鋼所や三菱マテリアル子会社の品質偽装について怒りも露わに指導に乗り出す。所管する業界を指導監督し、不正を糾すのは官庁の基本所作である。しかし、本誌十一月号で詳報した中外製薬が医師と結託して医療保険を詐取した問題では厚労省の動きが鈍い。正確に言えば同省の一部が今回の悪行を不問に付そうとしているのだ。
現在、この問題は同省保険局で調査が進んでいる。厚労官僚の中には「保険の不正請求なので、薬剤費だけでなく治療費全てを返還させ、医道審議会で処分すべき」と主張する者もいる。保険の不正請求の場合、数カ月の医師免許停止という行政処分が相場だ。
ところが省内で、これに反対しているのが医系技官である。医師免許をもつキャリア官僚で、総数約二百八十人を誇る一大勢力だ。今回の不祥事の舞台となった国立病院機構は医系技官の出向先。つまり責任を追及すれば、矛先が自らに向かうことになる。彼らは「(この件を)処分すれば、日本の臨床研究体制が崩壊する」と言い募っているが、これは詭弁である。
一義的な責任は、この連中を束ねトップに君臨する医務技監の鈴木康裕にある。今年七月に新設されたこのポストは、医療政策の司令塔となるポジションだ。だが、鈴木の評判はかねて悪い。ある厚労官僚は「物腰も丁寧で、一見、誠実に見えるが、権力に阿り、出世しか関心がない小役人」と評す。
そもそも、医務技監というポジションの在り方をねじ曲げたのが鈴木だ。このポストは前厚労相の塩崎恭久が任命した検討チームが提案したもので、英国の「チーフ・メディカル・オフィサー」がモデルになっている。政治状況に影響されることなく、国家的な公衆衛生事案で首相や大臣をサポートするのが役割だ。英国では通常、任期が五~十年で大学教授などの医師・研究者が就任する。
しかし、鈴木はこれを医系技官の上がりポジションに変質させ、自らが就任してしまった。そんなことができたのは、鈴木が「塩崎の覚えがめでたかった」(前出の厚労官僚)からだ。鈴木は塩崎には尽くしていたようで、大臣肝煎りの「審査支払機関改革」や「データヘルス改革」をリードして実現させた。
ところが、今年八月に加藤勝信に大臣が替わると豹変する。大蔵官僚出身の加藤は厚労行政の素人でブレーンもいないため鈴木に頼らざるを得ない。それをいいことに鈴木はやりたい放題を始め、「日本医師会の影響力を残すように、改革案を骨抜きにした」(都内の大学教授)という。
鈴木は一九八四年に慶應義塾大学医学部を卒業し、旧厚生省に入省した。慶大OBが仕切る医系技官ムラで順調に出世する間も常にその時々の権力者に媚びへつらってきた。最大の問題は「鈴木には臨床経験も専門性もなく、これをやったという実績が皆無」(前出の厚労官僚)であることだ。医務技監はパンデミック対策で司令塔の役割を期待されるのに、感染症対策の経験がないことは致命的だ。
こんな人物が日本の公衆衛生の司令塔を務めているばかりか、医師や製薬会社による犯罪的行為を見逃そうとする連中の親玉なのだから、救いようがない。
(敬称略)
現在、この問題は同省保険局で調査が進んでいる。厚労官僚の中には「保険の不正請求なので、薬剤費だけでなく治療費全てを返還させ、医道審議会で処分すべき」と主張する者もいる。保険の不正請求の場合、数カ月の医師免許停止という行政処分が相場だ。
ところが省内で、これに反対しているのが医系技官である。医師免許をもつキャリア官僚で、総数約二百八十人を誇る一大勢力だ。今回の不祥事の舞台となった国立病院機構は医系技官の出向先。つまり責任を追及すれば、矛先が自らに向かうことになる。彼らは「(この件を)処分すれば、日本の臨床研究体制が崩壊する」と言い募っているが、これは詭弁である。
一義的な責任は、この連中を束ねトップに君臨する医務技監の鈴木康裕にある。今年七月に新設されたこのポストは、医療政策の司令塔となるポジションだ。だが、鈴木の評判はかねて悪い。ある厚労官僚は「物腰も丁寧で、一見、誠実に見えるが、権力に阿り、出世しか関心がない小役人」と評す。
そもそも、医務技監というポジションの在り方をねじ曲げたのが鈴木だ。このポストは前厚労相の塩崎恭久が任命した検討チームが提案したもので、英国の「チーフ・メディカル・オフィサー」がモデルになっている。政治状況に影響されることなく、国家的な公衆衛生事案で首相や大臣をサポートするのが役割だ。英国では通常、任期が五~十年で大学教授などの医師・研究者が就任する。
しかし、鈴木はこれを医系技官の上がりポジションに変質させ、自らが就任してしまった。そんなことができたのは、鈴木が「塩崎の覚えがめでたかった」(前出の厚労官僚)からだ。鈴木は塩崎には尽くしていたようで、大臣肝煎りの「審査支払機関改革」や「データヘルス改革」をリードして実現させた。
ところが、今年八月に加藤勝信に大臣が替わると豹変する。大蔵官僚出身の加藤は厚労行政の素人でブレーンもいないため鈴木に頼らざるを得ない。それをいいことに鈴木はやりたい放題を始め、「日本医師会の影響力を残すように、改革案を骨抜きにした」(都内の大学教授)という。
鈴木は一九八四年に慶應義塾大学医学部を卒業し、旧厚生省に入省した。慶大OBが仕切る医系技官ムラで順調に出世する間も常にその時々の権力者に媚びへつらってきた。最大の問題は「鈴木には臨床経験も専門性もなく、これをやったという実績が皆無」(前出の厚労官僚)であることだ。医務技監はパンデミック対策で司令塔の役割を期待されるのに、感染症対策の経験がないことは致命的だ。
こんな人物が日本の公衆衛生の司令塔を務めているばかりか、医師や製薬会社による犯罪的行為を見逃そうとする連中の親玉なのだから、救いようがない。
(敬称略)
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