三万人のための情報誌 選択出版

書店では手に入らない、月刊総合情報誌会員だけが読める月間総合情報誌

連載

日本の科学アラカルト その最前線 88

生命の神秘に迫る「人工細胞膜」研究

2017年12月号

 今年のノーベル・ウィークでは、日本出身の英国人作家カズオ・イシグロ氏の文学賞受賞というサプライズはあったものの、「日本人四年連続受賞」は実現しなかった。しかし、過去の蓄積により日本人のノーベル賞候補者はいまだ多く残っている。少し気が早いが、来年に向けて注目されている日本人の研究をみてみよう。
 期待されるのは化学賞だ。二〇〇〇年からの三年連続受賞をみても分かるとおり、化学の分野は日本人のお家芸といえる分野が多い。一〇年に根岸英一氏、鈴木章氏の二人がクロスカップリングの開発により受賞して以降、ご無沙汰だ。
 近年最有力候補と言われ続けているのが、リチウムイオン電池の開発者である旭化成顧問の吉野彰氏や、十月号の本欄で取り上げたペロブスカイト太陽電池の開発者、桐蔭横浜大学の宮坂力教授などだ。また、一五年に京都賞を受賞した九州大学の國武豊喜特別主幹教授も化学賞の有力候補の一人として注目されている。
 一九三六年、福岡県生まれの國武氏は、九州大学工学部応用化学科を卒業後に米ペンシルベニア大学で博士号を取得した。六三年に九大に戻り助教授(当時)に就任、七四年に教授と・・・